「米國の關税案」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「米國の關税案」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

米國の關税案

米國の關税增率案は目下上院にて調査中のよし何れ遠からぬ内に院議に附せられて何とか

决することならん抑も該增率案は歳入增加の必要に出でたるものなりと云へども其細目を

見れば絹織物の如き花莚の如き段通の如き我國の輸出品に限り特に割合を重くして實際の

結果は恰も日本品を排斥せんとするものゝ如し國交際上に穩ならぬ擧動と云ふ可し關税の

賦課は獨立國の自由に存することなれば眞實財政上の目的より〓て各通商國に對して同一

の處置を執るものならんには其高低は他より喙を容る可き限りに非ず止むを得ざる次第な

れども今回の處置は然らず其結果に於ては獨り日本品に重税を課するの事實を見る可しと

云ふ實際に取扱を殊にしたるものと認めざるを得ず盖し彼の目的を察するに近年來米國に

は我國絹物の輸入次第に增加の勢あるを以て或る一部分の人民中には日本品排斥の税頻り

に喧しくパタソン地方の機業家の如きは日本品に重税を課す可しとの事を政府に建議した

る程にして排斥論は兎に角に一時の人氣を得たるより兼て關税の增率を主張したる新政府

の當局者は選擧競爭の當時に其人氣を利用したる縁故もあるが故に今回の增税案に夫れと

なく日本品排斥の意味を含ませたることならん政治家の手段に珍らしからぬ處置なれども

實際に彼國の利害は如何と云ふに斯る增税の爲めに果して自國の機業保〓の目的を達し得

べきや否や好しや達し得るとするも少數の機業家を保護するが爲めに漫に絹物の價を騰貴

せしめて一般の需用者を迷惑せしむる其の結果に比すれば損得果して如何なる可きや况ん

や本來の大目的なる歳入增加の一點に至りては日本品に重税を課したりとて格別の所得も

なきは明白なれば單に一時の人氣に投じて少數者を喜ばしむるに過ぎざる可し他の目的は

何れにしても我輩の關せざることなれども我商賣〓〓より見れば若しも彼の增税案にして

實際に行はるゝ〓〓〓〓〓次第に發達しつゝある絹織物は殆んど輸出の道を失ふて貿易商

機業家の損失は云ふまでもなく花莚の如き〓通の如き何れも非常の影響を蒙るに至る可し

决して默々に附するを得ざるなり本來我國と米國との交際は一種特別にして多年來の情誼

忘れんと欲して忘る可らず左れば商賣上の關係も從來我國人の特に注意したる所にして軍

艦の注文と云ひ航路開始の約束と云ひ日本國力の進歩と彼の西海岸地方の發達と双方相待

て其交通も次第に頻繁を催ほし其關係のますます密なる可きは天然の地理よりするも自か

ら然らざるを得ず敢て希望する所なるに單に一部の人民を喜ばしむる爲めに全體には左ま

での利益もなき關税法を行ふて日本品排斥の實を見ることもあらんには商賣の關係は勿論、

國交上にも影響して年來の情誼も自から冷却せざるを得ず果して然るときは我國の商賣は

自から他方に路を轉ずると共に米國の品物は一般に厭はれて買ふものなきに至る可し左り

とては遺憾の次第にして日本人の敢て好まざる所なれば彼の國人も自から考へて自から止

めにすること至當なる可し米國の政界商界自から人あり當局者が一時の人氣の爲めに斯る

法案は出したれども多數の説は自から歸する所あることならん我輩の注目して觀る所なり