「臺灣土匪の騷動」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「臺灣土匪の騷動」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

昨日の號外に記したる如く其筋へ達したる電報に據れば臺灣にては去る八日の午前土匪六百名許り大稻■(つちへん+「口」+「壬」)に襲ひ來りしに依り警察官軍隊これに應戰して百名許りを斃して全く撃退し今尚ほ追撃中なり我死傷は僅少なれども人民の被害戸數は二十七にして掠奪せられたる金品の額は四萬四千八百圓餘に及びたりと云ふ大稻■(つちへん+「口」+「壬」)は臺北府の町續にして纔に城壁一重を隔つる接近の地なれば此處に賊の襲來とあれば電信鐵道なども破壞を免れざりしならんと云ふ是れは全く想像なれども兎に角に近來の一大事變と云ふ可し抑も五月八日は臺灣の住民に去就を决せしむるの期日にして其期日までに退去せざるものは日本の臣民と見做すことを得べしとは馬關條約に定めたる所なり左れば同日までには嶋民の去就を一定せしめ最早や反亂など企つる如き賊輩は身を置くの餘地なき程に取締るこそ當局者の責任にして其施設の爲めには實際に充分の餘裕ありしにも拘はらず恰も其當日に當りて斯る始末とは驚入たる次第と云はざるを得ず或は土匪の騷動は支那政府當時よりのことにして今回に始まりたるに非ず一擧剿滅は容易ならずとの説もあれども僻陬遠隔の地に時時出沒の沙汰は兎も角も總督府の所在地なる臺北接近に數百の大數を擧て青天白日に襲來の變を見るとは何事ぞや其襲來の賊徒は所謂土匪なるもののみなるか或は其中には他の脅迫に遭い止むを得ずして附和したる輩もあらざるか其邊は姑く擱き實際に六百を以て計ふる大數の賊徒が隊を結んで襲來するには自から前前よりの用意なきを得ずして其用意は假令は〓〓としても多少不穩の形迹は掩ふ可らざるものありしならん平生より〓〓探偵の注意を密にしたらんには之を未發に防ぐの工風もある可きに恰も足元より鳥の立つが如き急變を演ぜしめたるは只驚くの外なけれども〓〓同地より歸りたる人の談に臺北城外僅に數里の處には往往土匪の出沒することあり内地人などは甚だ危險に〓て容易に旅行するを得ず土民の輩は其掠奪に苦しみて之を訴ふれども其筋にて手の屆かざるが爲めか注意の足らざるが爲めか殆んど顧みざるの姿なるが故に彼等はますます横行して兇暴を逞うするの勢にして其中何か大變を見るならんとは少しく考あるものの察し居たる所なりと云へば今回の事變も决して偶發とは見る可らざるが如し兎に角に同嶋の割讓以來既に滿二年に〓て〓一〓は戰亂の爲め費したりと雖も既に嶋民の去就を决せしめて眞實日本臣民と見做して〓〓す可き今日に至り斯る次第とありては其責任は果して何人に歸す可きや土匪の如き本來烏合の徒にして深く掛念するに足らざれども其烏合の輩が終始所所に横行して兇暴を逞うするのみならず嶋治の政源たる總督府所在の地さへ其〓〓を免かれざる如き始末にては政府の威嚴の嶋内に行はれざるは明白にして從來の施設とても如何なる事を爲しつつあるや大凡そ想像に難からず今回の騷動に掠奪せられたる金品の額は四萬四千八百餘圓なりと云ふ其害に罹りたるは内地人なるか將た土民なるか詳ならざれども此一事に徴するも彼等が毎度各地に出沒して掠奪を恣にするが爲めに土民輩の損害は非常のものなる可し既に日本臣民として日本政府の統治の下に在る良民にして尚ほ生命財産の安全さへ得る能はずとありては第一に割讓の趣意も立たざるのみか嶋地を拓殖して國の富殖に資せんとするの目的は何れの時を期して達するを得べけんや然かのみならず外を顧みれば日本が新に海外に版圖を得て如何に之を處分す可きやは世界列國の共に注目する所にして其始末は實に日本の國光に關する大事にこそあれば斷じて等閑に付す可らざるものなり左れば其施設經營に就て從來の成行より今回の如き事體をも見るに立至りし其始末は軍は彼地の當局者のみならず政府全體の責任として充分に其〓の歸する所を明にし區區たる情實を一掃して非常の决斷を斷じ以て一日も早く事の成蹟を擧げざる可らず我輩の敢て望む所なり