「京都御滯在」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「京都御滯在」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

天皇皇后兩陛下には去る二月皇太后陛下御大葬の節御奉送の思召なりしに折節兩陛下とも御不例に渡らせられ侍醫の人人より絶て申上げたる儀もありて御不本意ながら御見合せと相成りたるに付き過日の御百日祭に京都の行幸啓を仰出され親しく御祭典を行はせられたる御次第なりと云ふ扨その御式も滯りなく相濟みたるに就ては何れ不日に還御の御沙汰もあることならんなれども抑も陛下には一昨昨年より一昨年に掛て凡そ一年の間、日清戰爭の爲めに廣嶋の行在所に御滯留、日夜軍務の御指圖に御忙はしく殆んど御寢食をも安んぜさせられざる御次第なりしに本年二月には恐れ多くも皇太后陛下の御大喪に丁らせられて罔極の御悲みに沈ませられたる御事なれば况して御不例後の昨今、御心身の御勞りは如何ばかりならんと窃に恐察し奉る所なり左れば今回の行幸は御祭典の御爲めとは申しながら其御式も滯りなく濟ませられたる上は暫く舊都の離宮に御滯留あらせられて御心身を慰ませらるるも御差支はある可らず素より御服喪中の御事とて別に御出游等の御娯みはなからんなれども離宮は御降誕の塲所にして苑内の泉石草花に至るまでも自から御縁も淺からず朝夕の御逍遙も幾分か御鬱散の御慰とも爲る可きは申す迄もなく殊に東京府下にては麻疹流行の餘焔尚ほ未だ收まらずして昨今患者の數も少なからざる折■(てへん+「丙」)なれば旁旁以て御保養の爲めにも然る可きか若しも陛下に於かせられて行幸の御序に離宮の御靜養を好ませらるる思召もあらんには吾吾は此際一日も御滯在の永からんことを希望し奉るものなり