「臺灣の近况」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「臺灣の近况」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

臺灣の近况

日本は臺灣を得たれども統治の才なく其始末に困却せりなど外人に迄も冷評せらるゝに至

り我輩は屡々當局者の注意を促したれども何分にも果敢果敢しく治績を擧ぐる能はずして

往々失體を示すこそ遺憾なれ彼の文官と武官と軋轢して疑獄を起したるが如き不始末は姑

く擱き割讓以來二ケ年の今日に至るも尚ほ兵を収むる能はず臺北以外の地には旅行も安全

ならずとは不取締至極にして一般行政の有樣も察するに難からず敎育と云ひ衛生と云ひ徴

税と云ひ將た郵便電信と云ひ百般の施設何れも大切なるには相違なけれども何は扠置き生

命財産の安全こそ人間の最第一要なるに然るに土匪は所在に出沒して掠奪を逞うし守兵奔

命に勞れて命を殞す者少なからず邊陬僻遠の地に此事あるは尚ほ恕す可しと雖も臺灣の首

府總督の膝下なる臺北附近に隊伍整々、旗皷堂々砲銃を携へて賊徒の押寄せ來るが如きは

沙汰の限りにして當局者に於ては何としても申譯ある可らず勿論巡査も憲兵も多くは言語

不通にして耳も口も用を爲さゞれば豫め陰謀を察知するは難事に相違なしと雖も斯の如く

大擧して襲來するには兵器も用意せざる可らず往來奔走して人を集め計畫をも定めざる可

らず單に目を以て視るのみにて事の樣子は大抵察するに難からざる可きにいよいよ目の前

に押寄せて砲銃を發する其時まで手を下すこと能はざりしとは如何にも迂濶と云はざる可

らず世間に對しても耻づかしき次第のみならず政府の威信も立ち難くして土民はますます

之を輕蔑し土匪はいよいよ橫行するに至る可し我に歸服すれば切めては生命財産にても安

全なりとならば土民も自から忠順の意を生ず可きなれども總督府は膝下の平和をすら維持

する能はず不逞の徒をして鼎の輕重を問はしむるほどの始末なれば之に依賴して安心する

を得ず土匪に款を通ずるは勢の已む可らざる所なれば施政の難澁なるも偶然に非ざるなり

我輩は漫に難きを人に責むるものに非ず新領地の治め難きは竊に察する所にして圓滿の治

績は一朝一夕に望む可らざれども嶋政は今尚ほ軍政組織にして總督は武人なり守兵は三旅

團もありて憲兵巡査の數も少なからず假令ひ民政は整はざるにもせよ單に平和を維持する

の一事ぐらゐは容易に行はる可き筈なるに然るに前〓の次第とは返す返すも遺憾に堪へず

若しも〓〓〓〓〓不足とならば更らに增すも可なり守兵が少なしとならば是亦多くするも

苦しからず兎も角も安全だけは保證して居民を安心せしむること肝要なり日夜戰々兢々と

して其堵に安ずる能はず時々匪徒の爲めに生命を脅かされ財産を奪はるゝ樣にては何事も

緒に就く可らず世間の風説に據れば臺灣總督は進退伺を出し拓殖務大臣も亦更迭す可しと

云ふ眞僞は未だ明白ならざれども近日の事情に徴すれば或は事實として現はるゝやも知る

可らず我輩は甚だ之を惜むものなれども去るものは追ふ可らず只その〓〓〓〓當の人を得

んことを望むのみ前日も論じたる如く臺灣の政治は總ての方面より觀察して頗る〓〓なり

民〓〓〓にして我官民に〓〓の心なし聊かも其物〓の〓〓は帝國の〓目に〓すること甚だ

大なれば何は兎もあれ第一流の〓〓案を〓擧して其局に當らしめんこと我輩の切に望む所

なり