「足尾銅山鑛毒事件の處分/臺灣施政の新報道/戸山學校射的場改良」

last updated: 2021-12-25

このページについて

時事新報に掲載された「足尾銅山鑛毒事件の處分/臺灣施政の新報道/戸山學校射的場改良」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

足尾銅山鑛毒事件の處分

一昨日を以て公にせられたり其處分の方法は鑛主に對する鑛山監督署長の命令書、官〓民〓の處理方針に被害地方の免租出調の命令に就て見る可し抑も此被害所防御の方法は政府の兼て命じたる委員調査の結果にし〓專門の技師が學問上より判斷して斯く斯くすれば實際に害毒を免かる可しとて責任を負ふて立案し政府に於ても至當と認めて命令したることなれば最早や一毫も動かす可らずして諸事件の處分は茲に終りを告げたるものなり左れば命令通りに此方法を實行するときは鑛毒は全く跡を絶つことならんなれども只爰に殘る所は將來への防毒法は是れにて充分なりとして今日まで蒙りたる既往の損害は果して如何す可きの一事なり處分の命令中には曾て此事に及びたる事項なけれども我輩の所見を以てすれば本來この事たる政府の預り知る可きものに非ず政府は既に權能の許す限りに於てあらゆる力を盡して處分の法を講じたることなれば其責任は充分に全うしたるものと云ふ可し故に若しも被害地の人民にして從來の損失を其儘に付すること能はずとて其補償を求めんとならば之を法廷に訴へて法律上に爭ふ可きのみ又鑛山主に於ても萬一この命令に服從すること能はざるの事情あらんには是れ又法律に訴へて裁斷を求むるの外ある可らず而して裁判所に於ては如何なる判決を下すや知る可らずと雖も其判決は日本國法の命ずる所にして不服とあれば控訴上告たゞ法律上の手續を盡す可きのみにして其最後の判決に至りてもいよいよ目的を達すること能はざるときは最早や如何ともす可らず只默して國法の所命に服從するの外なし一國の法律は甚だ重し以て人を殺す可く以て人を活す可し死生尚ほ且つ法律の命ずる所にして苟も背くを得ずとあれば況して財産所得の損益に至りては只管國法に依賴して他に訴ふるの道なきものなればなり又その處分に就ては地方の人民などが例の如く演説集會など催ほして不服を唱ふるものもある可し其演説集會にして法律に觸るゝの擧動なき限りは全く自由にして毫も拘束す可らざること〓〓なれども若しも其演説集會にして不調に終り或は竹槍〓〓などの行爲を煽動するの〓〓あるか又は多人數の力を以て他人を脅迫するが如き擧動もあらんには政府は斷然職權を以て處分し一毫も假借する所ある可らず文明の政法に於ても苟も訴ふ可きものは自から訴ふるの場所あり斯る不法の行爲は斷じて許す可らざればなり要するに我輩は此命令を政府の權能上あらん限りの手段を講したるものと爲し其權能以外の處置は總て之を法律の判決に任ずるを以て至當と認めるものなり

臺灣施政の新報道

臺灣〓不〓末に付て前號に再三論じたれども尚ほ聊か記す所あらんと欲するは何とかして速に〓〓の功を〓せし〓人が爲めの〓〓〓〓は無代價にても得たるものに非ず十萬の大軍を動かし數千の生命を投じて漸く購ひたるものなれば我に取ては頗る大切の土地なるに然るに〓地より來る報道は一として不愉快の種ならざるはなし彼の土匪襲來に付ては近邦臺灣より歸りし人の話を聞くに當局者に於ても全く之を知らざりしには非ず據て不穩の状を探知したればイザ討伐〓〓〓て軍隊を差向けたれども其時は時既に遲くして賊の大擧して出發したる後なれば討伐隊は空しく明巣に入て憮然たる其間に賊は〓〓城下を指して押寄せ〓〓〓〓〓〓一部を分て本選より遣はしめ進撃の状を下したれば〓〓來れりとて更らに守兵を發して〓へ撃たしめたるに何ぞ外らん此手の襲來は擬勢にして〓〓〓〓に過らざれば忽ち〓て敗走したるに我兵は夫れをも氣〓〓〓〓て追撃したる其儘に〓とて本隊一人〓〓〓〓〓〓〓を恣にして悠々退去せんとする後より〓〓〓〓〓追撃して漸く百餘名を斃したるや〓〓〓〓〓〓〓〓我軍隊は區々たる鼠〓〓に愚弄せられたるものにして〓〓〓甚だしきものなり元來守兵は平時の保證にして又威信の〓なるに其擧動かくの如くなるに於ては土民の〓〓は勿論にして百般の行政も自から亂れざるを得ず聞く所に據れば衞生の爲めか將た體裁の爲めか先頃臺灣城外の濠を修繕して石垣を築きたるに脆くも一夜の雨に三箇所も崩壞したるは其工事の飴細工たるを證するものにして日本人の手際は格別なりとて土民中には冷笑するものもあるよし又曾て城内の下水を修繕するとて泥溝を掘返し往來に泥を堆くして二箇月も三箇月も其まゝに放棄し不便も不體裁も顧みずペストの襲來に促されて漸く手を下し二十日間にして完成したりと云ふ着手すれば二十日にして出來る工事を數箇月間も捨置くが如き亦怠慢の一端にして聞けば聞くほど不始末の暴露するこそ遺憾なれば當月八日は嶋民の去就を決す可き期日にして未だ詳細の報に接せざれども退去するもの案外少なからざるが如し現に臺〓に於ては二千五百名も退去したるが上に旅費なきが爲め餘儀なく留まりしものも多しと云ふ我輩は固より之を憂ふるものに非ず去らんと欲するものは〓〓と去らんことこそ却て望む所なれども然れども假に之を以て〓統治の不〓〓を征するものとすればまた甚だ歎ぜざるを得ず元〓〓嶋人は國と云ふ思想に乏しき民にして生命〓〓が安心にして租税の負擔さへ重からざれば其統治者は何人にても頓着せざるものなり戰爭中の事實に徴すことも明白なれば我輩は五月八日に至るも去るものは殆ど皆無にして何れも我文明の政治に悅服するならんと思ひの外、幾千の退去者あるは〓は我政府の恃む可らざるを感じたるには非ざるか若しも然りとすれば實に我帝國の不眼目と云はざるを得ず日本人は果して支那人を支配するの腕前なきか最近の戰爭に於ては見事に大敵を打〓て武名を世界に輝したり又占領嶋の人民は我民政の公平に感服して多く日本の臣民たらんことを希望したり北〓と臺灣とは固より事情を異にすと雖も彼の技倆ありて此失敗を招かんとは内外人の等しく意外とする所にして要するに怠慢の罪と云うはざるを得ず當局者果して責任の重きを知らば深く自から顧みて〓に治績を擧ぐ可し若しも能はずとならば是非もなし〓の賢能を擧て責任を果たするの外に途ある可らず我輩は今日の不手際を以て日本人の本色を示したるものとは信すること能はざるものなり

戸山學校射的場改良

一昨日二三の小供が牛込なる陸軍戸山學校の近傍に餘念もなく遊び居たるに同校の射的場より散彈銃を發し其一人を斃したるのみか別に飼犬を負傷せしめ近所の土藏樹木等をも〓したりとは實に無〓と云ふ可し右は勿論一時の過失たるに相違なしと雖も其危險は今日に〓〓したるに非ず〓〓に〓を冷〓〓〓は毎度の例なれば一昨年近〓の村々は〓〓〓〓〓〓事に危險豫防の儀を歎願せしに何の效能もなく射的場は依然舊の如しと云ふ〓に其危險を防ぐは左までの難事に非ず筋違い外に〓を〓る防禦壁を作るまでにして造作もなきことな〓假令ひ又巨額の費用を要するに〓せよ人命には替へ難い十分豫防工事を〓さゞる可らざるに然るに人民〓歎願をも顧みず相當の注意を怠て〓に今回の不幸を〓するに至ては一時の過誤と云ふと雖も其責決して輕からず〓に善後の處置あらんこと我輩の切に望む所なり