「同盟罷業」
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時事新報に掲載された「同盟罷業」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
同盟罷業
職工人夫等が互に申合はせて業を休み賃錢を增さゞれば就業せずとて雇主に迫る之を同盟
罷業と云ふ西洋諸國に於ては珍しからぬ事にして毎度新聞紙上にも見ゆる所なれども我國
にては未だ其沙汰を聞かず只餘所の事とのみ思ひ居たるに昨今漸く其萌芽を發したるが過
般門司の石炭運搬夫が同盟して賃錢の增加を要求して以來、此所彼所に同樣の企を爲す者
あり郵船會社艀船の同盟罷業、神奈川縣船大工の同盟罷業、横濱市水道工事人夫の同盟罷
業、〓橋郵便脚夫の同盟罷業に次で橫濱の艀船業者も亦罷業して運賃を高めたるよし或は
追々諸方に蔓延するやも知る可らず元來この爭は世運の進歩に伴ふ病氣にして避けんと欲
するも容易に避く可らず文化普からずして力役者流が無知無力なる時代に於ては假令ひ雇
主より酷〓虐使せらるゝも敢て不平の聲を發せず只默從するのみなれども敎育の進歩は小
民字を知り理窟を解するの始めにして之に加ふるに新聞出版の發達、交通機關の改良を以
てして次第に世間の事情に通じて運動も自由なれば心身共に活溌となりて唯命是れ從ふを
得ず不平あれば忽ち言行の上に發するは自然の數なり政治上に於ても民智の上進と共に民
權論を催ほすは自然の勢にして我國の沿革に徴して其事實を見る可し左れば政治上に民權
論の盛なるは恰も社會上に勞働と資本との爭を生ずるの前兆とも云ふ可きものにして霜を
履めば次で堅氷至るを覺悟せざる可らず抑も昨今に〓て續々此爭を見る其近因は物價の騰
貴に在ることにして昨年來衣食住の費用次第に增加すると共に勞働者が賃錢の增加を請求
するも已むを得ざる事情にして或は尚ほ他にも傳染することもある可し其次第は今日まで
の同盟罷業は概して勞働者の勝利に歸したる姿にして門司の運炭夫郵船會社の艀船を始め
として神奈川縣の船大工も半ば目的を達し橫濱水道工事の人夫は食料費並に賃錢を增され
たる上に竣工の上は賞金を〓〓らるゝの約を結び橫濱の艀船業者も二割方運賃を增されし
〓の始末なれば自から他の勞働社會一般に心を動さゞるを得ず凡そ此種の事は恰も流行傳
染の性質を〓ぶるものにして例へば書學校の紛議の如き一地方に〓れば間もなく近隣より
各地方に波及して續發するの〓にて故らに眞似する譯にはあらざれども先〓を〓ふは人情
の自然にして知らず知らず一時の流行を〓〓〓の〓〓〓〓〓〓〓〓〓が悉く勝利を示すに
於てをや〓〓〓〓〓〓〓〓〓は〓〓〓言ふに及ばず資本〓は〓〓〓〓〓〓を中止せられて
爲めに利益を失ひ勞働者〓〓賃〓を得ずして徒食する其〓〓だけは詰り社會の繁榮を害す
るものにして若しも屡々烈しき同盟罷業の起るあらば其災大なりと雖も勞働を重くして賃
銀を輕くせんと欲するは資本家の常情にして勞働者が其困窮を免れて衣食を安くせんとす
るには自から〓〓して迫らざるを得ざるの事情なき〓〓ず〓ち〓世〓〓〓心する所に〓〓
〓〓救濟の〓法〓〓〓と〓も我〓〓〓〓〓〓今〓〓〓〓〓〓したるまでに〓〓〓は尚〓〓
〓〓〓なれば〓〓〓〓〓に依ては〓は〓〓其〓〓〓〓〓の望なきに非ず法外に賃錢を惜ま
ざる〓勿論、進で彼等の感情を融和するの方法を求め例へば大工塲其他多數の勞働者を使
役する處には折々僧侶を招て説敎を聽聞せしめ臨時に〓食を振舞ふと其勞を〓し附属の學
校を設けて讀書算術の初歩を授け病院を設けて醫藥を施し歌舞音曲花見遊山等の娯樂にも
近づくの便を得せしむるなど専ら情合を以て接するに於ては其間目から春色を催して殺風
景なる騒も隨て容易に發するこの能はざる可し今日にても世間の工塲中には此類の方法を
施して効能の見る可きものありと云ふ一日にても永く實業の無病息災を計らんこと我輩の
切に望む所なり