「臺灣の鐵道」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「臺灣の鐵道」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

臺灣統一の功を全うせんとするには先づ鐵道の完成を謀るより急なるはなし殖産興業の爲めに運輸交通の必要なるは勿論なれども目下嶋地の有樣は土匪の騷動尚ほ〓〓〓〓〓〓て良民の難儀は申す迄もなく内地人など〓〓〓の旅行は甚だ危險にして郵便脚夫の如き兵士に援衞せられながら不意に狙撃せられて倒るゝこと毎度の沙汰にして時としては大擧、襲來官廳に迫るの奇變さへなきに非ず要するに臺灣の地は未だ統一の實を見ざるものと云ふべし其實を見んとするには何は兎もあれ土匪を一掃して全く跡を絶たしむること肝要なれども彼等は本來の草賊にして出沒隱現極まりなく之を討伐すれば散じて山谷の間に隱れて形を現はさず引擧ぐれば忽ち集合して亂暴を逞うし只兵士をして奔命に疲れしめながら剿滅の功を奏すること甚だしと云ふ或は土匪の怖る可きは只彼等が銃器を所持するが爲めに過ぎず而して其銃器彈藥等は支那大陸の地方より密輸し來るものなれば海岸の取締を嚴重にして供給の途を絶つときは恰も狼の牙を奪ふと一般にして自から制し易きに至る可しとの説あり即ち此目的を達するは警察吏の數を揩オて取締を密にするに在り甚だ容易なるが如くなれども實際の有樣を聞くに近來警察吏の數は從前に比して揄チしたれども何分にも言語不通の爲めに一人前の用を爲さゞる其上に氣候風土の變化よりして常に病氣に惱まさるゝもの多きが故に平素の巡邏取締等も意の如くならざること多しと云ふ左れば若しも嶋内の鐵道出來して交通往來の便を見るに至らんには軍隊の如きは今の如く處々に散在して恰も^狩を爲すと一般の擧動を止め自から必要の場合に集中して容易に動かず其動くや疾風迅雷耳を掩ふに暇あらず機を誤らずして必ず目的を達するの運動を逞うすること難からず警察の如きも又隨て視察を敏捷にして事を未發に防ぐの便利を得ることならん嶋内統一の爲めには差當り鐵道完成の必要なるを見る可し更らに一歩を進めて考ふるときには目下東洋の形勢は日にますます切迫の状を呈して今後如何なる變態も知る可らず若し萬々一も破裂して外戰の不幸を見るに至らんか進退攻防の略は自から時の場合に決す可きものとして扨臺灣は如何す可きやと云ふに臺灣小なりと雖も既に我手中に歸して我政令を布きたる以上は正しく日本國の版圖にして苟も他の蹂躙を容す可らず之を失ふの不面目は四國九州を失ひたると同樣にこそあれば飽くまでも力を盡して其防御に勤めざる可らず畢竟今の守備隊の設置も單に土匪鎭壓の爲めのみに非ず萬一の變に備ふるの目的に出でたるは敢て疑はざる所なれども其場合に臨み海中孤立の孤嶋を守つて四面の敵に當らんとするに軍隊運動の爲めに鐵道の設けは是非とも缺く可らざるものなり此點より見れば臺灣の鐵道は第一軍事上の〓要にして實は軍事鐵道として政府に於て速に着手し今頃は既に大半の成功を見る可き筈のものなるに政府は財政のキ合不可なればとて私設會社の請願を容れて其敷設を許可したり本來の目的は只達成の一事に外ならざれば果して其目的を達せんには官設にても民設にても素より差支なけれども昨今の成行を聞くに會社は利子の補給その他の特典なきに非ざれども嶋地の現状は世人の知る如くにして未だ内地人の安心を得ざる其上に近來經濟社會金融逼迫の折柄、株金の募集意の如くならずして資本の定額に達せず此分にては着手に困難なりとて會社の創立員は政府に向て更らに交渉する所ありと云ふ交渉の趣旨は知らざれども其困難は實際の事實にして此儘にて速成の目的を達せしめんとするは到底望む可らず左れば會社の願意果して聞く可きものに非ずとすれば政府は其約束を取消して斷然官業として自から着手す可し第一の捷徑なれども目下財政のキ合、如何にしても自から着手を得ずとならば既に會社の募に應じて資金を出したるものあるこそ幸なれ政府は其不足の金額だけを支出し恰も官民合同の會社を設けて着手するも差支はある可らず官と云ひ民と云ひ等しく日本國民のみ國民の懷は豐かにてありながら些々たる資金の支出に躊躇して眼前に急なる軍國必要の國事を遲滯せしむるが如きは斷じて許さゞる所なれば何れにしても其方法を一決し一日も早く着手せんこと我輩の希望に堪へざる所なり