「臺灣鐵道の事業」
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時事新報に掲載された「臺灣鐵道の事業」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
臺灣鐵道の事業
臺灣に於ける鐵道敷設の急にせざる可らざる次第は前號に述べたる如くにして其次第は何人も認むる所ならん彼の臺灣鐵道會社の計畫は此目的に出でたるものならんなれども目下の事情を聞くに募集の資本金、豫定の額に達せずして實際の着手覺束なかる可しと云ふ嶋地の現状彼の如くなる其上に金融社會の事情亦斯くの如くなる昨今の塲合に無理もなき次第にして此儘にては自から計畫を止むるの外なかる可し會社の存廢は孰れにしても差支なかれども之が爲めに國家必要の事業を停止せしむるが如きは斷じて許さゞる所なり聞く所に據れば會社の創立員等は今後助成の條件に付き政府に交渉中なりと云ふ其條件の果して聞く可きものなるや否やは姑く擱き臺灣の統一と防備とは政府の任ず可き所にして苟めにも等閑に付す可らず然るに其統一防備に第一の必要なる鐵道の敷設にして空しく延引することもあらんには萬一の塲合に容易ならざる次第にこそあれば政府は如何なる方法を以てしても其速成を謀らざる可らず果して成案あるや否や當初政府が私設會社の願意を容れて鐵道の敷設を許可したるは財政の都合上、自から着手するを得ざるが爲めにして會社に事を任せたる其代りに利子の補給その他の特典を與へたることなれども夫れにても尚ほ豫定の資金を得る能はざるは畢竟時勢の然らしむる所にして餘儀なき次第なれば更らに會社を補助して事を成さしむるか然らざれば斷然その約束を取消し政府自から着手するの外なかる可し我輩は寧ろ政府の着手を望むものなれども事業の着手は第一、金との相談にして實際に金なければ如何ともす可からず目下の財政の有樣にては全く引受くることも覺束なしとすれば政府は會社資本の足らざる其不足金だけを支出して官民合同の事業と爲し其速成を謀るも自から一法なる可し即ち半官半民の會社を造ることにして別に怪しむに足らず實際に差支なけれども政府の會計に其不足の金額だけも支出するの餘裕なしとあれば是れ又實際に行はる可らず致方なき次第なれば我輩は是に於てか帝室に於て其株券を所有せらるゝ一事を以て最も適當の方法なる可しと認むるものなり或は帝室費は僅々三百萬圓に過ぎず迚も會社の株を引受けらるゝに足らずと云はんかなれども實際に日本銀行を始めとして郵船會社、日本鉄道、炭鑛鐵道その他の諸會社に至るまで帝室にて株券を所有せらるゝ其會社甚だ少なからず（目下の銀行會社に就て帝室持株の重なるものを擧ぐれば日本銀行六萬九千六百六十株（一株拂込額五十圓）、正金銀行舊株一萬二十五株（一株百圓）新株二萬百七十五株（一株二十五圓）、郵船會社舊株三萬二千三百株（一株五十圓）新株四萬八千四百五十株（一株卅七圓半）、日本鉄道一萬三千六百八十七株（一株五十圓）炭鑛鐵道一萬八千四百株（一株五十圓）等なり〓或は中には永久の財産として所有せらるゝ向もあらんなれども多くは事業奨勵の趣旨に出でたるものにして本來収益の目的には非ざりしに其奨勵の效、果〓〓〓〓からず孰れも事業の基礎を全うして利益を見る〓〓〓隨て其株券の直段も大に騰貴して拂込以上に上りたるものこそ多ければ今その株券中の一小部分を賣却せらるゝときは臺灣鐵道資本の不足を引受けらるゝが如き甚だ容易なる可し若しも帝室に於て株券所有とあれば一般の人氣自から引立ちて資本募集の便利を致し事業の成立は必ず疑ふ可らず自から奨勵の趣旨に協ふものと云ふ可し或は萬一事業失敗の塲合には如何す可きやの掛念もあらんかなれども人為の事業に萬全の成功は固より期す可らず失敗の塲合には損するの外なけれども僅々何百萬圓の損失、帝室に於て掛念せらる可きに非ず臺灣の鐵道果して國家必要の事業にして之を奨勵す可きものと認められたらんには現在の株券の一部分を賣却せられて其資本の不足額を引受けられ從來内地の鐵道同樣、奨勵の目的を達せらるゝこと最も適當の處置なる可し臺灣の實際を見れば人口も多く物産も乏しからず眞實國家富源の地たること疑ふ可きに非ざれども其富源たると否とに拘はらず鐵道の敷設は統治上に軍事上に實際緊急の必要にして片時も猶豫す可きに非ず幸に帝室一臂の恩助を得て事業速成の目的を達せしめんこと希望に堪へざるなり