「整理と統一」
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時事新報に掲載された「整理と統一」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
整理と統一
政府はいよいよ決心して行政整理に着手す可しと云ふ我輩の大に賛成する所なれども抑も整理とは新に事を企つるに非ず從來の不始末を始末して其始末を付くることなり甚だ容易なるが如くにして實際は然らず年來政府が屡ば其事を企てながら效を見ざりしは如何なる次第なりしやと原因を尋ぬれば畢竟その始末に統一の實を得ざりしが爲めに外ならず整理と統一とは苟めにも〓る可らざるものにして一方には如何に整理を謀らんとするも一方に統一を缺くときは到底目的を達す可らず喩へば一家の始末にしても家政改革と稱して勝手向は非常に儉約して總菜までも粗末にしながら内々藝人の類を出入せしめて奥向の散財に締括りなく又雇人を淘汰するにも永年精勤のものを役に立たずとて解雇しながら更らに細君の縁故云々などの情實を以て無頼の少年を雇入るゝが如きこともあらんには決して整理の實を見る可らず眞實その實を擧げんとならば第一に主人の決心は勿論、細君を始めとして一家全體に其心〓を以て事に當り奥向より勝手元に至るまで主人の趣旨を一貫せしめて釣合ひを保つこと肝要なり即ち統一の實にして改革の要は唯その實を失はざるに在るのみ政府の決心甚だ好しと雖も其主人たるものに部内の全體をして能く統一を保たしむるの力量あるに非ざれば其實を擧ぐること容易ならず最も注意す可き所のものなり我輩は敢て當局者の力量如何を疑るものに非ざれども從來の事實に徴して聊か不安心に堪へざるものあ〓〓云ふ其次第を云はんに行政整理は決して〓〓の〓ひ立に非ず現政府創立の當時より宣言したる所にして〓に其調査委員さへも命じたるに拘はらず政府は先頃突然農商務省の官制を改正したり其改正は何れ實際の必要に出でたることならんなれども一方には委員に調査を命じ置きながら一方には農商務の一省のみ恰も出抜けに改正を發表したるは何故ぞや其後内務省と云ひ又逓信省と云ひ引續て改正を行ひたるは孰れも農商務の輩に傚ふたるものにして其理由は知るを得ざれども局外より見るときは統一の實を缺きたるものと認めざるを得ず又勅任參事官の如き近日に至りて漸く任命を見たれども其これを命じたるは内務外務大藏農商務の四省のみ果して必要の職ならんには各省同樣に任命す可き筈なるに内實には其任命を嫌ひ種々の口實を設けて殊更らに延引するものさへありと云ふ是れ又統一を缺くの證據にして右等の事實に撤するときは今度の整理なるものも果して統一と伴ふ可きや否や少しく疑なきを得ざるなり左れば行政整理と稱しながら勝手に改正を行ふて或は必要もなき局名など設けて必要もなき人物を容るゝ其一方には或は全く省門を鎖して一切の新客を謝絶し又人材登用云々とて頻りに少壮の輩を用ひんとする最中に〓〓老練經驗の口實を以て妙な人〓〓〓が〓出することもあらんには行政整理は〓〓〓出の中に没せられて〓〓ますます不始末を重ぬるに〓〓〓〓〓の主人たる〓に其不始末を排除して統一を〓つの〓〓あるや否や今度の整理は非常の決心にて從來の行〓には一切頓着せず大に始末するの覺悟なりと云ふ實際の事情を見れば議會の開會を前に控へながら若しも躊躇することもあらんには其反對は必然にして最早や猶豫の塲合に非ざれば何とか決斷することならん否な議會の向背は整理の實を擧ぐると否らざるとの一事に決することなれば政府の運命に掛けても是非とも斷行せざるを得ざることならんと雖も實際に事の成否は統一力の如何に在り若しも一方に張りながら一方に縮みて部内の釣合を失するのみか登用の人物の如きも老朽を以て老朽に換ふるが如き次第ならんには實際に整理の效は見る可らず政府既に大に決心したりと云ふ此處ぞ當局主人の力量を試む可き大切の塲合として我輩の敢て奮發を望む所なり