「革新の時機」
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時事新報に掲載された「革新の時機」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
革新の時機
一身の健康を保たんには時に大運動なかる可らず始終同一の生活を繰返へし去年も今年も昨日も今日も同じ物を■(めへん+「永」)め同じ食を食して別に不愉快もなければ愉快もなく不養生もなければ養生もなく只靜に起居するのみにては以て強壯を望む可らず南船北馬或は山に登り又〓に航して活溌に運動する其間には眠食時を得ず風雨寒暑に暴露するなど自から不養生を犯すこともある可しと雖も其不養生が却て養生の種と爲りて遂に身心の強壯を得るなり政治も亦斯の如くにして年年歳歳同じ種類の役人が同じ筆法を以て同じ事を繰返へし別に失策もなければ手■(てへん+「丙」)もなく只戰戦兢兢として無事を祈るのみにては以て進歩を見る可らず是まで内閣の更迭は毎度の沙汰にして其度毎に多少の變化を見ざることなし或は官制を改正し又官吏を任免したれども何れも表面の姑息細工にして根柢より大修繕を施したることあるを聞かず官制の改正とは只甲の局課を廢して乙の局課を分割したるぐらゐの事にして官吏の更迭と云ふも多くは一の部局より他の部局に轉じたるのみ偶偶新に採用することあるも其人は曾て官吏たしりものか然らざれば官邊に縁故深き者にして純粹無垢の民間人士を採りしことは甚だ稀れなり譬へば一家内に於てたびたび床の間の置物を取替へ椅子、卓の位地を轉じたれども其家具は新に求めたるに非ずして從來しばしば用ひたるものを再び持出したるに過ぎざるが如し毫も耳目を新にするに足らず政界變動の常なきも其一原因は盖し此に在らんか度度見たる〓居は久しく見るに堪へず執政者が更れば何か目新しき趣向もあらんかと國民は竊に待ち受くるに拘はらず何時も同じ筆法にして格別の變化を見ず人心忽ち倦んで更迭を思ひ首尾よく望を達したる所にて扨その新政府の擧動は如何と云ふに相も變らず因循姑息、ただ同一の軌道を廻轉するのみなれば又忽ち飽きて又更迭を促し此に内閣の短命を見るなり今の政府の將に組織せられんとするや根本的改革と云ひ人材登用と云ひ又言論自由、財政整理と云ひ稍稍異樣の〓を發したれば世人も今度こそは多少見る可きものあらんと竊に〓を屬したり其望果して空しからず多少成功したるは疑もなき事實にして例へば新聞紙條例を改正して發行停止を〓し在野の新人物を採用して官民一新の〓を啓き又特に官民間の隔壁を破て双方大に〓〓づきたるが如き現政府の著しき手■(てへん+「丙」)として何人も認むる所なれども然れども未だ以て世人を滿足せしむ〓に足らず否な大に物足らぬ心地せしむるは何ぞや元氣乏しければなり時としては奮發の色なきに非ざれども又忽ちにして〓〓〓〓、一言にして决す可きをも容易に决せざるの形跡あるが如し例へば言論自由の〓言の如きも彼の宮内大臣事件の爲めに脆くも内閣〓〓が動搖して將に反古に歸せんとしたるを世間の冷評、〓〓〓〓〓等の督〓に依て危く喰止めたる〓の次第にして〓〓一二の新〓〓〓〓〓自由黨の青年大會に歌ふ〓〓〓りとて下ら〓〓〓〓〓〓〓を掲げたる〓〓〓を〓〓するものとして〓〓に〓へたるが如き兒〓と〓〓〓〓可らず又人材登用も右に遠慮し左に會釋して只差障りのなき所に少しばかり實行したるのみ人材は用ひたきも左ればとて思ひ切て在來の官吏を動かすの勇なく久しき間悶着の末漸く新に官を設けて任用することと爲りしは即ち勅任參事官にして而かも各省に置く能はず僅に三四人を任命したる其内情は寧ろ憐む可し其他財政に於て只一時を彌縫するに汲汲たるが如き圓銀の始末に於て俄に門戸を閉ぢて強ひて責任を輕くせんとするが如き何れも卑怯の證據ならざるはなし之を譬えば恰も臆病者が四方より喧しく促さるる爲め餘義なく一寸奮發することあるも忽ち其本性に立ち歸りて逡巡するものに異ならず是に於て乎假令ひ一二の英斷あるも世人は皆不安心に思ふこそ道理なれ東陬可憐の一小邦が俄に進で世界強國の利に入り四面猜疑の内に立つと共に一億に足らざり其歳出入は一朝二億五千萬と爲りて尚ほ足らず商工業は急に膨脹して運輸交通の機關は其需用に應ずるに足らず新思想の人を要すること甚だ急にして教育の規模も大に擴張せざるを得ず新領地の施政は頗る困難にして内外の苦情喧しきのみならず政府立脚の基礎も亦將に一變せんとするものの如し是迄政府の後楯として恃む所のものは藩閥にして民論と對陣して爭ひしことなれども今や則ち然らず藩閥の勢、漸く衰ふると共に民論の力は次第に發達して最早や舊來の筆法を容さず先年或る老政客は議會に於て意氣揚揚維新の革命は薩長の功なりと吹聽したることあれども今日に至ては何人も敢て斯の如く大膽なるを得ず即ち藩閥を基礎とせし政府も既に國民の同情に依頼せざるを得ざるに至りしものにて世人が動もすれば今の時を以て第二の維新と云ふも偶然に非ざるなり而して維新政府に最も必要なるものは活溌の無力にして此氣力なきときは以て宿弊を破るに足らず明治初年の當局者は甚だ大膽にして思ふて决せざるなく决して行はざるなし人を用ふるにも徒に順序に拘泥せず苟も人材と見れば素寒貧の書生にても直に拔擢して重要の職に任じたり其間には固より失策も少なからずと雖も果して失策と見れば改むるに躊躇せず只日本の進歩を目的として直進したるが故に政治は常に活動して著しき成績を示したることなり然るに今の政府が氣力に乏しきは前にも記したるが如くにして進むかと思へば退き奮發するかと見れば逡巡して一事を决するも容易に非ざるが如し世人が往往不滿の色を示すは即ち之が爲めなり盖し當局者に於ても今の時勢の平穩無事に非ざるを知るならん就職の當時宣言して云く戰後〓〓の大〓〓に其端を啓き百事尚ほ〓〓に屬す實に非常至難の秋なりと果して然らば自から非常の决心ある可き筈なるに然るに實際然らざるは何ぞや部内の統一の實なく右せんとするものあれば又左せんとするものあり其〓定容易ならずして心ならずも優柔不斷に陷ることならん部内の異分子を淘汰して同志の士を入るるなり又は別に統一者を求むるなり兎も角も同心一〓〓〓活動の實を備ふること肝要なり之を要するに政治は〓〓その掃除を怠りたる爲め煤も積り塵埃も堆くして不潔なるのみならず不用なる破れ道具の散亂するあれば又有用なる器物の埋れるもあり是非とも〓〓せざる可らざるに時恰も節季に際したれば尚更ら大に掃除して以て〓しき新年を迎へざる可らず其掃除の爲め假令ひ誤て一二個の茶椀を〓〓一二〓の椅子を〓ずるも頓着するに足らず〓〓の清潔には代へ難し思ひ切て刷新せんこと我輩の切に希望する所なり