「政府の近状」
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時事新報に掲載された「政府の近状」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
政府の近状
政府の不統一不决斷は近來に至りて愈よ掩ふ可らざるものあるが如し或は今回の議會には政府臭味の議員多數なれば先づ以て安心なりなど云へども斯る事の始末にては實際果して安心なるや否や甚だ覺束なし既に政府組織の際に當局者の腹心として用ひたる官吏の中にも辭職を申出したるものさへあり如何なる事情なるや知らざれども昨今の有樣は外より見るも堪へ難き程なれば内に於ても少しく心あるものは大に安んぜざることならん無理もなき次第なりと云ふ可し一二屬僚の進退大局に關係なきが如くなれども既に腹心として用ひたる輩の心をも收むること能はずとあれば部内一般の情態も自から想見るに難からず况んや議員の多數に於てをや本來その輩が今の政府と方向を共にしたるは主義政見の同じきが爲めとは云ひながら是れは世間に對する表面の辭にして裏面には自から種種の内情なきに非ず或は登用の榮を得て地位を成さんとするものもあらん又は官邊に接近して何か利せんとするものもあらん種種の情實相逢合して多數を成したる其多數の輩は孰れも今の政府を以て自家の望を達するに便利と認め之を助けて成る可く永續せしめんとするものなれども政府の擧動甚だ拙にして次第に内幕の破綻を露はし次第に天下の人心を失ふの恐れあらんには本來爲めにする所ありて方向を共にしたる輩は斯る政府に掛り合ふて容易に身援のならぬ始末ともならば後來の不利益のみか差當り明年の選擧競爭には他に攻撃の利益を授けてすまらぬ目を見ることもある可しとて徐ろ徐ろ身構を變じて切迫の塲合に至れば足元より鳥が立つ如き急變も圖る可らず决して油斷す可らざる所なり一葉落ちて天下の秋を知る、此際の用心最も肝要なりと知る可し抑も現政府は組織以來何事を爲したるやと尋ぬるに自から宣言したる其宣言の一個條をも實にしたることなし第一に豫算の如き如何にする積りなるや前内閣の末路最も苦しみたるは財政の一事にして其失敗は全く此一事の爲めと云ふも可なり然るに其失敗の後を承けて自から成算ありと稱したる政府にてありながら更らに新趣向もなく實際には單に前内閣の遺計相續のみとありては天下に對して面目なき次第ならずや財政の善後策とあれば何人をして局に當らしむるも租税を増すか然らざれば外債にても起して兎に角に歳入の不足を補充する外に手段なかる可し果して其手段に出でんとならば先づ自から部内の改革を斷行して面目を一新し斯く斯くの次第なるが故に歳入の増加も止む可らずとて一般の人心に其〓〓を納得せしめざる可らず即ち行政整理の必要なる〓〓にして政府に於ても此邊の事情は自から了解したることならん組織當初の宣言中にも其事を明言して實際に着手しながら既に豫算調製の期に迫りて畧ぼ調製も濟みたる頃ならんと思はるるにも拘らず〓〓の一事は只〓〓〓〓の〓のみにして容易に捗取らざるが如し議會〓〓年十一二月の間に開くの例にして總て事の决着は〓〓〓〓の中に在り一日も早く决斷し〓〓の實を天下に發表せざる可らず大に斷じて間違ひたらば間違ふても差支なし只自から責を引くまでのことにして男子の擧動として天下に對して申譯あれども若しも此際に處して優柔不斷剩さへ不統一の事實を露はすこともあらんには議會の向背覺束なきよりも先づ自家の〓〓内より崩れ始めて不覺の最後を見るやも圖る可らず政治家の恥辱のみか其技倆の程を世間に暴露して從來博し得たる信用をも失ふに至る可し現政府は本來出來損ひの政府にして充分の事は固より望む可らず我輩の最初より重きを置かざりし所なれども只一種の勇氣を存して兎に角に前後を顧みずして進まんとするの一點こそ割合に世間の同情を得て今日まで持續したる所以なるに目下切迫の塲合に勇氣阻喪して何事も爲し得ずとあれば即時に倒るるの外なきのみ自から倒るるは差支なけれども同じ倒るるにも穢き最後を遂げて汚名を流すと間違ふても决斷して面目を全うすると孰れを取る可きや我輩は當局者が自家の利害に訴へて大に奮發せんことを望むものなり