「私利自から公益を離れず」
このページについて
時事新報に掲載された「私利自から公益を離れず」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
何人も他を利せざれば自から利する能はざるは社會自然の法則にして例へば商品を高く賣
る商人は一見自から利するに巧なるに似たれども高賣の結集自然に顧客を減じて店頭の寂
寥を致すは愚の極と云はざるを得ず其顧客を減ずる所以は如何なる商賣にも新舊商賣敵な
る者あり他の隙に乘じ自から利せんとて競爭するが爲めにして此〓〓こそ自利利他の二素
を〓化して一團と爲すの妙用なれ但し他の競爭を許さゞる〓〓の〓業者に至りては社會を
損して獨り自から益することなきに非ず例へば競爭線なき鐵道の賃銀の如きは多少引上げ
たればとて之が爲めに著るしく乘客貨物を減ずるに非ず即ち他を損して自から利すること
を得べきが故に此種の〓業は郵便電信等と同じく政府自から營むか或は政府より巖に檢策
して運賃を制限し一般の便益を增進する等の處置に出づるを要すれども苟も競爭自由なる
營業にありては自利利他同一致にして政府に於て干渉〓〓の必要はある可らず今、日本銀
行は紙幣發行國〓〓會の特典を占有して獨壇營業の觀あれども其營業は〓〓たる〓費〓に
外ならず〓に〓費とあれば獨り日本銀行のみに〓るに非ず從て他を損せしめて獨り自から
利することを得ず商賣上の〓〓にして〓は銀行が其〓特典に依りて得る〓の〓利息又は〓
〓の資本を濫用するときは一〓〓〓〓を〓〓することを得べしと雖も〓局は自からも大に
損せざるを得ず即ち〓〓の爲めに自他に〓〓〓る〓は世間に自から之を利する者ありて其
こ〓〓〓し〓〓〓が更らに〓て〓〓〓を〓〓ば是れ〓日本〓〓〓〓〓〓にして〓〓れ〓〓
りて〓〓なければ加〓〓〓〓するも〓〓ある可からず〓して大金の〓〓に〓〓〓〓〓〓資
本家の〓〓もあるべし日本銀行は詰り事情の許す限り〓〓の〓〓に〓〓す〓上の利益を占
むること能はざるものなり左れば金利の昂低の如きは之を銀行に一任して毫も差支ある可
らず英は銀行か國家の爲めに金利を〓停す云々とは我輩の毎度耳にする所なれども單に國
家の爲めとは〓して如何ある可きや〓〓銀行の金銀の輸出入に適應して輸出盛なれば利息
を引上げ輸入盛なれば〓之を引下ぐるは實際の事實なれども元來金銀の輸出は後來の金銀
逼迫を意味し又其輸入は緩慢の前兆なれば〓〓銀行の〓〓逼迫の時期に亘る可き低利貸〓
の〓〓を防ぐ爲め緩慢の時期未だ去らざるに先づ金利を引上げ〓き又後來緩慢の時期に資
金の〓〓多きに過ぐるを防ぐ爲め逼迫の最中に先づ金利を引下ぐるが可きは是れ自衛自存
の道にして單に國家の爲めに非ず其昂低の〓度他の銀行に先んずるは其〓扱ふ斯の賞金多
額なるだけに其思慮も亦自から深〓ならざるを得ざるを大銀行の〓置は非常に無理ならざ
る限り小銀行は自から之を〓〓〓る可からざるとの事情に由るものにして决して國家の爲
めに〓〓を覺悟して率先するに非ず其結果〓〓體に効益あるは自利自他元と自から同一致
なる妙理の然らしむる〓のみ如〓我輩が日本銀行に望む〓〓此自利〓を〓るの一事なり從
來日本銀行は緩慢の時期に〓〓し逼迫〓〓期に貸出し以て金融の平〓を保つと〓し譬へば
一小池の水、增加すれば之をタンクに貯へ涸渇すればタンクより吐き出す其タンクを以て
自任したるものなり日本の經濟社會尚ほ一小池たる時代に在りては斯る小刀細工も行はれ
たれども今日の日本は外面こそ依然たる一小池の如くなれ其底には直に汪洋たる大海に遇
する一道の晴渠開鑿せられたり之にタンクの水を注瀉するは偶々其水準を引上げて金銀の
流出を急劇にするのみ愚の糧と云はざる可らず速に英國銀行の所爲に倣ひ小池と外海との
通路たる〓〓に關門を設けて池高ければ池水を海に移し海高ければ海水を池に引くの策を
〓ず可きものなり關門の開閉は即ち利息の昂低にして此の如くして日本銀行が自から獨立
するも一般社會に利ありて〓なきこと明白なるのみか又此獨立は政府の財政にも一點の故
障を見ざるものなり銀行獨立すれば大藏大臣は金利昂低の職〓を失ふが故に豫め腹心の商
人に含めて公債〓〓の〓〓をなさしめ又は〓らに利息を低落して從來の公債を高價にし以
て新公債を高價に募集するの地を爲すが如きことは〓〓思ひも寄らず經濟上自然の趨勢に
於て募集し難き所の公債は何人をして大臣たらしむるも〓〓するに由なかる可し財政上の
不便と云へば不便たるに似たれども政府の會計方に限り民間自然の〓〓〓〓に動作せしむ
るが如きは我意の毫も必要を認めざる所なり政府は元來他の企て及ばざる大信用を有する
者なれば更らに一種の別法を設けて其會計に便にするの必要はある可らず是等の便法なき
ため政府が從來の公債を意の如く高價に釣り上げ置く能はざると同時に新公債も低價に募
集せざるを得ざる點より生ずる損失は結局利子に止まれども是れとても自から〓くるの〓
なきに非ず即ち〓〓に代ふるに〓〓を以てすることにして毫も〓支なきもにか政〓〓〓〓
〓て大に利する所ある可し此他銀行の獨立が財政上に及ぼす〓〓〓大の〓〓もては〓らに
〓〓と云ふも可なり畢竟日本銀行が利息の昂低を〓〓して自から〓〓を〓〓獨立を〓し以
て國家の爲めにすと云ふ其國家の爲めとは如何なる爲めなるや我輩の毫も解せざる所なり
或は日本銀行には紙幣發行等の特權あるが故に國家に對して何か〓ゆる所なかる可らずと
ならば充分に活動し營業を活發にして自から利益を収め明白に其収益の〓分を割て之を國
庫に入る可し是れぞ自から利して兼て國家を〓する最上策にして曖昧の間に利益を割き之
を國家機關など云ふ名目の下に埋没し去るは我輩の飽くまでも感服せざる所なり