「増税の難易」
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時事新報に掲載された「増税の難易」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
増税の難易
明年度の豫算は成る可く節■(にすい+「咸」)するも尚ほ二千四百餘萬圓の不足を生ず可しと云ふ増税は免る可らざるの數にして國民は又負擔に堪ふるの餘力あり二千萬や三千萬を増したればとて平氣なるは明白なるに然るに昨今此問題が聊か行惱みの色あるは何ぞや内部に種種の事情もあらんかなれども結局その案の通過如何を氣遣ふが故ならんのみ凡そ金錢を徴收するには其人に信用なかる可らず喩へば不評判なる僧侶が堂塔を修繕し學校を設立するが故に錢を寄進す可しと云ふも應ずるものなかる可し其然る所以は錢を惜むが故に非ず又宗教の功徳を知らざるが爲めにも非ず只錢の効用を空うせんことを恐るればなり政府が租税を徴するも亦斯の如し人民に於て百萬圓を出せば百萬圓だけの効能あり千萬圓を増せば千萬圓の便利を得べしと信ずれば増税は苦もなく行はる可しと雖も一旦其信用を失へば苦情百出して容易に目的を達す可らず先年議會が軍艦製造費を否决したるは言外の意味もなきに非ざれども當時海軍省は不始末なりとの評判ありしに因るのみ今、現政府の信用如何と云ふに其性質は寧ろ正直なる方にして別に私を營みたることもなく又不義を犯したることもなきのみならず成る可く官吏の空威張りを止めにして近く人民に接し相共に爲すあらんとする其志に於ては大に嘉す可きものありと雖も仕事の仕振り何分にも不活溌にして一官吏を進退し一事件を始末するにも右に〓、左を顧みて容易に决せず其間に思ひ掛けなき苦情を生じて遂に失敗に歸するは毎度の沙汰なり左れば世人が其腕前如何を疑ふも無理ならぬ次第にして此際増税案を提出するも或は意外の反對に出遇ふやも知る可らず目下の處、政府黨の多數なるは疑もなき事實なれども其多數が敢て味方する所以は別に深き子細あるに非ず只當局者の爲す有るに足るを信ずるが故なれば其果して恃むに足らざるを悟るに於ては自から方向を轉せざるを得ず况んや錢を取らるるは本來人民の喜ぶ所に非ずして餘り頼もしからぬ政府の爲めに選擧區民の歡心を失ふは議員の身として迷惑至極のことなるをや左れば増税の爲めにも當局者に有爲の實あるの實を示すこそ肝要なれ而して其有爲とは畢竟萬般の施設を大膽に决斷するの謂にして必ずしも失策なきの意味に非ず弘法にも筆の誤あり偶偶心得違することあるも其氣力にして慥ならんには人は頼もしき政府として尚ほ望を〓す可し否な其失敗は却て不决斷より生ずること多し臺灣總督府の官制の如きも颯颯と决斷したらんには今日の如き失敗はなかりしことならん行政整理も思ひ切て斷〓したらんには案外の功を收むることある可し左れば〓〓の〓在〓甚だ〓〓にして昨今政府部内に何が〓〓の〓〓〓〓〓から〓〓に〓〓したることなれば〓〓治〓〓〓〓〓〓なり〓〓の一事は以て百般の困〓〓〓〓す〓〓足る可し我輩の返す返すも勸告する所なり