「進歩黨の擧動」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「進歩黨の擧動」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

進歩黨の擧動

今回進歩黨が政府に迫りて實行を要求したる條件は都合五箇條のよし同黨臭味の新聞紙の所報に據れば左の如し

 一 非立憲動作は斷じて爲さざる事を誓はしむる事 一 内閣の統一を期するが爲めに異分子を淘汰する事

 一 財政を整理し經費を節■(にすい+「咸」)するが爲め豫算の再調査を爲す事

 一 臺灣統治の方針を變更し弊政の根本的革新を圖る事

 一 會計檢査院長の行爲を處分する事

第一に非立憲動作とは如何なる事實を指すものなるや現政府に斯る動作ありしが故に今後を警しむるの意味か將た實際に其事なしと雖も若しも有りては大變なりとて豫め誓言を爲さしめんとの意味か甚だ分明ならず或は彼の臺灣總督府の高等法院長免職の事實の如きは同黨の非立憲的動作と認むる所にして既往の事は致方なけれども今後は斷じて斯る動作を爲さしめざるの意味なる可しと言ふものあり果して然らんには何ぞ其緩慢なるや我輩に於ては本來彼の如き事實に重きを置かざるものなれども立憲的動作を以て自から任ずる進歩黨が自から非立憲と認めたる其事實を看過して今後さへ謹しめば以前進退を共にす可しと云ふ其自任の薄きに驚かざるを得ざるなり次に内閣統一の爲めに異分子を淘汰す可しとは兼て新聞紙上などに云云したる所謂伴食宰相なるものを退けて同臭味の者を入れんとの趣意なる可し甚だ好しと雖も本來異分子とは自黨と主義を殊にするの意味ならん果して然らば所謂非立憲的の動作を演じたる張本人の如きは異分子の最も大なるものにして一日も内閣に置く可らざるものなり然るに其張本人は單に今後を警しむるのみにして實際には居るも居らざるも大體の方向に妨なき伴食の連中を排斥せんとす何ぞ其大なるものに寛にして小なるものに酷なるや第三に財政を整理し經費を節■(にすい+「咸」)するが爲めに豫算の再調査を爲す可しと云ふ是れぞ要求中の大眼目にして最も重きを置く所のものなる可し財政の整理、政費の節■(にすい+「咸」)、如何にも立派なる立言にして何人も異議はなき所なれども抑も進歩黨が今日と爲りて斯る要求は寧ろ自家撞着の擧動には非ざるか彼の農商務省が卒先して官制改正の〓を〓き局長の地位を進めたるが如き又勅任參事官などを新設したるが如き殊に外務省の外交機關を擴張して大に機密費を増加するの計畫の如き孰れも同黨員の賛成したる所ならん否な自から主張したる所にして是等の事實に徴するも今日の實際に經費の増加は自から止む可からざるの必要を知るに難からず然るに節■(にすい+「咸」)の目的を以て今更ら豫算の再調査を云云するが如き其趣意果して何くに在るや或は彼等の掛念する所は專ら増税の一事に在るが如くなれども所謂戰後の〓〓に經費増加の結果は是非とも増税の决斷に出で〓〓を〓〓〓り切たることにして何人をして局に當らしむるも〓〓は工風はある可らず政府の事を助くると稱する進歩黨が増税に反對とは難きを責むるものにして餘りに空空しき〓〓なりと云ふべし次ぎに臺灣云云は甚だ同意なれども會計檢査院長の處分とは何事ぞや院長の處置或は〓〓を缺きたることもあらんなれども今の憲法の規定より云へば院長の地位は行政官の勝手に動かし得べきものに非ざるに然るに政府をして之を處分せしめんとするは恰も自から非立憲的の動作を教唆するものに非ざるか是れ又自家撞着を免かれざるが如し右の如く單に要求の箇條に就て見るときは恰も小兒の〓言に等しきが如くなれども扨實際に黨員輩の魂膽を察すれば决して斯る單純のものに非ずして其精神の所在は自から明白なるものあり即ち政府の近状を見れば甚だ不决斷にして自から宣言したる行政整理の實行も覺束なく世間の耳目を新にするの擧動とては一として見る能はざるに拘はらず今度の議會に増税案を提出の覺悟なりと云ふ進歩黨より見るときは最初より結託を云云して然かも其擧動を監督す可しと公言したる其政府が政黨の申分を容るるには甚だ吝なる其上に年來の禁句なる増税案さへ提出とありては所謂監督者の身分として世間に對して申譯けある可らず折しも議會の開期切迫して政府に於てもますます議塲に多數を得るの必要を感ずるこそ好機會なれ他の弱味に乘じて思ふ存分に切込み自黨の勢力を政府部内に伸張して立脚の地を固む可しとの下心より今度の要求に及びたることならん即ち其條件は表面上の口實にして實際の目的は勢力伸張の一事に在ることならん黨略の掛引上、無理もなき次第にして敢て怪しむに足らざれども其精神果して此邊に存することならんには其手段は甚だ拙なりと云はざるを得ず政府に於ても目下切迫の塲合に味方の多數を失ふは容易ならざる次第なれば漫に其要求を拒絶することはなからんなれども抑も今の政府の眞相を察すれば近來頗る政黨の趣味を帶びたるが如くなれども内心深き處には別に自から頼む所のものありて政黨結託の如き單に一時の便宜の爲めに過ぎざれば若しも黨員の輩が要求の條件を條列して是れは云云せよ彼れは云云す可しとて飽くまでも表面より迫ることもあらんには忽ち其急處に觸れ政黨風情の輩に堂堂たる大政府の體面を屈するが如き斷じて爲す能はざる所なりとていよいよ本音を現はすに至るやも知る可らず斯くの如きは俗に云ふ藪蛇の愚を演ずるものと云はざるを得ず或は實際には政府の輩も漸く老却して亦往年の勇氣なく目下の無事を專一として成る可く其要求を容るるの方針に出でんには自他の仕合なれども要求の條件は眞實無理の注文にして如何に寛大の度量を以てするも悉皆その注文に應ずることは實際に望む可らず左れば事の成行を想像するに政府に於ても斷然拒絶の勇氣なく又進歩黨に於ても飽くまでも要求を主張するの不利なるを悟りて爰に双方の讓歩と爲り大抵の處にて折合を告ぐることとせんか誠に目出度き次第なれども扨その結果を如何と云ふに世間の見る所に於て政府は黨員の強迫に遭ふて他に歩を讓りたるの觀あると同時に進歩黨は正正堂堂要求の條件を條列しながら單に其一部分を採用せられて忽ち腰を折りたるの譏は免かる可らず共に一般の信用を損するのみにして實際の所得は其騷動の大なるに比して甚だ小なるの結果を見ることならん思ふに進歩黨は〓に政府と結託の〓を成して然かも議會に多數を制することなれば此切迫の塲合に際し政府に對して勢力伸張の道を得んとならば運動の手段も多多にして自から目的を達するの望なきに非ざるに然るに事茲に出でず表面に不通の條件を條列して大聲疾呼徒に世間の耳目を驚かしながら假令ひ政府をして幾分か讓らしむる所あるも其結果は双方の信用を薄うするのみにして實際の所得は案外小なる可しと云ふ精神の誤れるに非ず擧動の拙なるが爲めなり今の政黨の運動尚ほ若しと云ふ可きのみ