「大隈の辭職」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「大隈の辭職」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

大隈の辭職

大隈外〓の辭職は〓に〓〓られて即日後任の任命あり〓〓〓〓〓の當任〓〓〓〓したり政局の一變化として見る可し大隈の進〓に付き我輩は其留任〓望みたれども政界の事情自から茲に〓りしものならん止むを得ざる次第なりと云ふ可し抑も今の日本政治の方針は文明進歩の一途あるのみ其方針は既に巳に明白にして何人も異論を挾むものはなからんなれども實際に文明の政治は甚だ複雜にして之に當ること决して容易ならず殊に我國目下の位置を見れば戰爭以來形勢全く一變して世界の一強國として認められたると同時に立國の艱難は更らに幾倍して内の經營の急なるは勿論、對外の關係に至りては所謂千鈞一髪も啻ならず一歩を誤るときは如何なる大變も圖る可らざる大切の時節なりと云ふ此間に立て外は國交際を滑にして新強國たるの體面を全うし内は一般の人心を導て益益進歩の實を收めしめんとす其施設經營は甚だ微妙にして單に精神一偏に依頼して目的を達す可きに非ず即ち文明の政治に文明の人物を要する所以にして此難局に際して内外の重任に當らしむるには文明思想を第一として之に兼ぬるに才識技倆共に國中第一流の人物を推さざる可らず今の政客中に指を屈すれば伊藤大隈の如き自から種種の非難はあれども實際の實力は何人も認むる所にして差當り第一に數へざるを得ず此點よりすれば陸奧の如きは惜しき人物を失たる者にして今更ら殘念に堪へざる所なり思に今の政府の人人とても文明の思想は自から充分にして决して精神一偏を以て事に當らんとするものに非ず目下の難局に際して自から時に處するの經綸あるは其平生に徴して我輩の疑はざる所なれども兎に角に世間一般の見る所にて自から第一流と認められたる大隈の如き人物を缺くに至りしは甚だ惜しむ可し遺憾に思ふ所なり然りと雖も政界には自から政界の事情ありて其去就進退は外より強ふ可きに非ず事既に决したる上は大隈の辭職も致方なしとして扨政府に於ては既に外務文部の更迭を行ふて農商務の如きも日ならずして後任者を定め其他尚ほ變化もあるよしなれば此際内の組織を固くして大に奮發するの覺悟なる可し既に覺悟したる上は前後左右を顧みず斷然自家の所信を執て進む可きのみ文明進歩の方針は何人をして局に當らしむるも斷じて動かす可からざるの國是にして今更ら言を俟ず我輩は本來、人を見ずして事を見るのみ眼中藩閥なく又政黨なし只文明流の人物に非ざれば今の政治を託するに足らずとして飽くまでも此一事を主張するものなれば政府の人人にして果して其方針に隨ひ内外の事を處して能く當局の職任を全うするの覺悟ならんには取りも直さず自から文明の事を行ふものなり我輩は之を文明の政友と認めて其事を助くるに躊躇せざる可し