「元老は皆政黨に入る可し」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「元老は皆政黨に入る可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

元老は皆政黨に入る可し

議會を開て國民に參政權を與へながら政府が獨り政黨以外に超然たらんとするは恰も船に乘らずして海を渡らんとすると一般、到底行はる可きに非ず然るに從來當局者が政黨を度外視したるは高の知れたる書生輩の團體、如何に騷げばとて何程の事かあらんとて政黨の如き眼中に置かずして事を共にするを好まざりしが爲めあなんなれども是れぞ大なる心得違にして議會開設以來、施政の困難は主として之が爲めならざるはなし政府が毎度對議會に苦しみ或は漫に解散を行ふて紛擾を釀し或は豫算の不成立を告げて折角計畫の事業を停止し若くは衰龍の袖に隱れざるを得ざるなど常に不如意を感じたるは豫め政黨の用意なかりしが爲めに外ならず近頃少しく悟る所あるものの如く或は内内政黨を作らんとし又は既成の政黨と提携の端を開くに至りたれども夫れも單に在職の間にして喉元過ぐれば熱さを忘るるの喩に洩れず一旦地位を退けば復た政黨を顧みるものなし左れば再び内閣に入るときは更らに大騷動して更らに新友を驅り集めんとするも固より俄細工のこととて自から無理を犯さざるを得ず今の政府の如きは其著しきものなる可し例へば進歩黨との分離の如き政府の力を以てすれば自から議會を切拔けるの工夫ある可しとて思ひ切りたることならんなれども何ぞ圖らんいよいよ離縁の曉に至りて耳を傾くれば四面楚歌の聲のみにして大丈夫、味方と頼みたる公同會さへも去就分明ならずと云ふ左ればとて議會解散と决心せんか明年度の豫算には種種必要の新事業費若しくは擴張費を含むのみならす此際是非とも増税を斷行して財政を整理せざる可らず然るに議會解散の結果は豫算の不成立にして右等の計畫は總て水泡に歸せざるを得ず當局者の大に苦しむ所なる可し而して解散後の總選擧に於て政府は果して多數を制するの見込あるや否やと云ふに今日の事情彼の廿五年の如き活溌なる運動を許さざること明白にして勝算は先づ以て覺束なしと云はざるを得ず勝算なき解散は只骨折り損に過ぎざるのみ今や政府は是非とも此議會を切拔けざるを得ずして必死の運動に着手し議塲に多數を制する爲めには如何なる手段をも辭せざるの色あるが如し彼の進歩黨の要求に對しては閣臣の進退行政の作用は决して他の容喙を待つ可きものに非ずとて斷然之を刎付けたる其舌の根の未だ乾かざるに自由黨に向て二大臣、五局長、七知事、意見採用、選擧費支出等を條件として提携を求めたるが如き寧ろ狼狽の沙汰にして爲めに威信を損したること一方ならず又世間の風説に據れば當局者の間には議員操縱の爲めに増税案の提出を見合す可しとの〓もありと云ふ果して然らんには殆んど沙汰の〓りと云はざる可らず進歩黨の分離、大隈の辭職も此問題の爲めにして政府の命脈のあらん限りは〓迄も實行を期せざる可らざるに〓〓に〓〓〓〓あるは事實は兎も角もとして〓に〓〓の〓状を〓〓〓〓ものと云ふ可し要するに〓〓〓〓〓〓に陷りしは〓〓〓家の力を過信して平生よ〓〓〓を求めざりしが爲めのみ立憲政治の下に於ては議會に多數を制するに非ざれば何事も爲す可らず數年來の苦苦しき經驗は此簡短なる道理を敢へて餘師あることなれば〓〓の輩も今は大に合點したることならん俗に云ふ苦しき時の神頼み、只當局の間のみ是非とも賛成を頼むとて議員の間を説き廻はるも盜を捕へて繩を綯ふと一般、到底間に合ふ可きに非ざれば其輩にして今後尚ほ政界に立たんとするの覺悟ならば提携と云はず聯合と云はず斷然思ひ切て政黨に投じ速に藩閥政黨合體の實を擧ぐ可し長老、老いたりと云ふと雖も尚ほ宿望の利用す可きものあり藩閥老政客の宿望と民間新政客の敏腕と眞實相合して一體と爲ることもあらば以て有力なる政府を作るに足る可し一方には宿望ありて實力の足らざるものあり他の一方には實力ありて未だ宿望の足らざるものあり時に手を携ふることなきに非ざれども未だ同心一體の實を呈するに至らず是れぞ政界の常に混雜を免れざる所以なり今や時勢大に進歩して外人の内地雜居も近きに在り内の政治界に於ても全然從來の隔壁を撤して政黨の内に長老の雜居せんこと政治の進歩の爲めに妙なる可しとして我輩の勸告する所なり