「實業家の運動に就て」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「實業家の運動に就て」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

昨今經濟社會が非常の難局に陷り資金次第に欠乏して事業沈衰の傾あるより世間に種々の救濟策を唱ふる者ある折柄、實業家の間に最も勢力ある説は外資輸入と軍備縮少との二なるが如し戰爭以來政府は軍事費に充てんが爲めに多額の公債を募集して事業家の手より資金の一部を吸收して通貨の分配を擾亂し講和後今日に至るまで毫も償還の手段に出でざる其上に世間に通貨膨張物價騰貴の現象を呈し大に資本の效力を減殺したる次第なれば事業家が資金の缺乏に苦しみ其計畫に困難を感ずるも強ち無理ならぬ所にして外資移入の必要を認めたるも自然の勢と云はざるを得ず近頃海外の金融市場も非常に退促の樣子にして英蘭銀行の割引料は既に三歩に上り今後も引續て騰貴の傾ありと云へば果して此方にて希望する如く低利の資金を供給するの餘地あるや否やは確ならず又其移入の方法も熟考を要する所なれども兎に角に事業家に其意ありとなれば斷行また不可〓〓〓ずしも政府の保證等に限らず事業の信用を利用して外貨を移入す可きのみ事の成否は其人々に一任するの外なしとして扨目下經濟上の困難を以て軍備の擴張に由るものと爲し其縮少を唱ふるに至ては全く事の眞相を誤れるものと云はざるを得ず資金の欠乏事業の困難は所謂戰後經營の結果に外ならざれば先づ軍備の縮少を斷行して目前の困難を救ふ可しとは實業家の主張する所なれども抑も今の經濟社會變態の原因は償金流用の爲めに通貨を膨張せしめたるに外ならず償金を流用すると否とは軍備擴張の實施に直接の關係なきものにして流用の爲めに經濟社會の難局を招きたりとすれば其責は財政の當局者にありと云はざる可らず戰後經營の爲めに揩オたる租税は登録税酒造税營業税の三種にして登録税を除けば搨・後尚ほ一年を經過せざる次第なれば其影響如何は未だ知る可からずと雖も近年來我國力發達の事實より見れば多少の攝ナを行ふも大に一般の消費力を減殺し資金の供給に差支を生ずるの掛念はある可らず要するに實業家の云ふ所は唯、一時の變態を以て軍備擴張に由るものと速斷したるに過ぎざるのみ若しも政府が償金の流用を止め攝ナに依ョして財政の基礎を堅固にすると共に兌換制度の作用を自然に任せて通貨の收縮を謀らんには物價は下落して銀行の預金は揄チし又貸出を請ふ者も其數を減して資金の供給に餘裕を生ずるは明白なれども唯、我〓は〓くて經濟社會が常態に復する其際に膨張したる〓〓が收縮し騰貴したる物價が下落して金融上に意外の〓〓を見る可きやを憂ふるものにして實業家の如きは〓〓〓に對する策を講ずるこそ然る可きに断然國力の不〓を唱へて經濟社會には事業の關係なき〓價の縮少を唱ふるとは大早計の譏を免れざる可し殊に一流の實業家が日本銀行に對して金利の引下げ擔保品區域の事業を望み大に制度外貨〓餘を昵「していよいよ通貨を〓〓しめんと〓〓〓〓〓〓果して何事ぞや日本銀行〓にして苟も順〓〓〓〓〓〓今後金利の引下げは營〓〓〓〓〓にして兌換制度の安全を謀り經濟社會をして〓〓に復せしむるに已むを得ざる所なり且つ擔保品の如きは先年一時の權宜の爲めに案出せられたるものにして對人信用の道を開かんとするには其廢止を期するこそ當然なるに更らに之を擴張するが如き斷じて許

す可らざる所なり今日に當り更らに通貨を膨張せしめんと希望するは自から一部門の事にして眞に實業の發達を謀るものは一時株式の沈衰如何に拘はらず通貨を收縮して經濟社會の復舊を求むるの外他に手段なきを信ずることなる可し我輩が聊か一言する所以なり