「外資輸入の方法」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「外資輸入の方法」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

外資輸入の方法

外資輸入の一策として外國人に内國諸會社の株式を所有せしめんと云ふ者あり現に某鐵道會社の如き定款を改正して外國人をして株主たることを得せしむ可しと云ふ事業家が政府の保護保證等に頼らず自から事業の信用を利用して外資を輸入するは固より差支なき所にして確實なる會社などが株主を外人に募るに至らば内外金融市塲の關係を密接ならしむるには甚だ妙なる可しと雖も我現行の法令并に條約に於て外國人は會社の株主たるを得るや否やは實際の疑問なり外人が國立銀行日本銀行正金銀行鑛業會社取引所の株主たるを得ざるは法律の規定する所にして甚だ明白なれども其以外の會社に至りては自から一問題にして政府が如何に决定するやは容易に知る可らず現行の條約は舊幕時代に成りしものにして外人が株式を所有するが如き當時當局者の念頭に浮ばざりし所なれば別に規定なかりしは當然の事として扨今日文明國一般に行はるる法理に於ては法令又は條約に於て禁止したる塲合を除くの外總ての私權を外人に享有せしむるの例にして我國の新舊民法共に之と同樣の規定あり假令ひ法典實施前の今日に於ても右の主義に從へば外人に株式の所有を許すも差支なきが如くなれども其反對に外人には法令又は條約に於て特に許したる外一切の私權を享有せしめざる主義を執らんには現行の法令又は條約上に於て外人に株式所有の特權を與ふる能はざるは必然の結果にして專賣特許條例の如き其適例なりと云ふ即ち可否の爭點は法理の如何にして當局者と雖も自から判斷に苦しむ所ならんなれば結局は實際の便宜如何に依て决するの外他に道なかる可し而して改正條約未だ實施に至らず外國人に關する訴訟は總て領事裁判を經ざるを得ざる今日に當り外人に株式を所有せしむるときは會社の營業に種種の混雜を見る可きは勿論外人の方より見るも株主として株式の配當を得るは當然なれども其以上に株主たる權利を行ふを得るや否やは甚だ明白ならず會社の重役と爲りて事業を經營監督し或は總會に出席して諸般の恊議に與るは株主の權利中最も重大のものなるに現に外人の居住には居留地の制限あり又營業の自由も非常に拘束せられて以上の權利を行ふ能はずと云ふ外人が斯る不便をも忍んで株式を所有せんとするは甚だ疑ふ可きのみならず又此方の利害より云ふときは彼等が株主たるの結果として會社の重役たることもあらんには重役に對する訴訟は我國の裁判所に提起するを得ず隨て法律に定めたる各種の制裁を加ふる能はざるの不利ある可し或は一方に外資を輸入するの必要よりして會社の株式を外人に所有せしむるは唯一の輸入法なりとあれば此方の不便不利を顧みずして成る可く外人に便利を與ふ可しとの説もあらんかなれども我輩の所見を以てするに會社が外資を輸入せんとならば〓〓株式の賣却のみに限らず社債券を發行して同一の〓〓〓〓〓得るのみか實際には寧ろ好結果を見る可し〓〓するも可なり元來〓〓の資本家が我國に資本を放下する其目的は安全〓〓〓〓〓らんとするが爲めにして〓〓〓〓〓所有〓〓〓〓るも會社事業の景况を篤と調査して果して確實と認めたる上に非ざれば容易に買入るるものはなかる可し而して此邊の調査は外國人に取りては隨分困難にして例へば郵船會社の如き内國の大會社にして其株式は帝室の財産ともなりて世間の信用甚だ厚きものさへも突然無配當の失躰を見るなど意外の不始末もなきに非ざれば外人の身としては事情不案内なる會社の株式を所有するよりは寧ろ債券を買入れて確實に一定の利足を收むるこそ寧ろ希望する所なる可し果して然らば株式賣却の如きは姑く他日の談として今日は差し當り債券賣出の策を講ずるこそ外資輸入の目的を達するに普通の順序と云はざる可らず現行の法律には債券の發行に就て種種の制限を設け株式の拂込半額に達せざるものは發行する能はず且つ發行額も株金拂込高を超過する能はざる定めにして小會社などには甚だ窮屈なるが如くなれども若しも不便の事情あらんには勸業銀行が割増金付債券に依て輸入したる外資を更らに借入るるなどの便法もあるべし會社にして外資の輸入に意あらば特に法律上未决の問題を决定し或は種種の不便を忍んで株式を賣却するまでもなく債券の發行に依て好結果を得るの道なきに非ず我輩の當業者に向て注意を望む所なり