「總支配人を置く可し／日本銀行の銀貨準備」
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本文
總支配人を置く可し／日本銀行の銀貨準備
總支配人を置く可し
日本鐵道會社の機關方がストライキを起したるは種々の事情に由るものなれども重なる原因は運輸汽車兩課員の待遇平衡を失したるに在るものゝ如し而して其平衡を失せしめたるは固より社長の落度なれども一歩を進めて論ずれば組織の宜しからざるも亦其一因なる可し西洋諸國に於ては何れの鐵道會社も總支配人なる者を用て專ら營業全體を管理せしめ社長は只社務の大綱を綜るのみ譬へば社長は猶ほ大臣の如く總支配人は略ぼ次官に同じ一は政務に任じ他は事務を總括するが故に不行屆も前から少しと雖も日本の鐵道會社に於ては大小内外の事、總て社長の管掌する所にして社外に對する交際も社員の任免調陟も汽車運轉の注意も乘客貨物の取扱も線路の保全も株金の募集も物品の購入も財産の始末も一切社長の一身に集まり三面六臂の人に非ざれば到底その任務を果すこと能はず盡すこと能はざる任務を背負はしむるが故に自から放任と爲り又課長政治と爲りて各課長はおのおの思ひ思ひに人員を進退し其給料を增減して統一する所なく遂に紛爭を生ずるものなり今や日本鐵道會社にては重役の更迭談あり追々社務を一新するの計畫ありと云ふ誠に好機會なり〓に〓〓の例に倣ひ事に熟練なる總支配人を置て〓〓即ち運轉、汽車、保線の事を總括せしむ可し斯の如くすれば各課不統一の憂もなく列車の運轉より旅客貨物の取扱に至るまで自から注意行屆きて種々の不都合を免る可し重役の更迭も必要ならんと雖も如何なる敏腕家にても内外百般の社務を一人にて始末するは到底、力の及ぶ所に非ず殊に日本鐵道の如きは全國氣比の大會社にして一萬有餘の人を役するものなれば其專務の繁多なる推して知可し專任の營業監督を置くの必要なるは論を待たず我輩の敢て勸告する所なり
日本銀行の銀貨準備
兌換銀行條例に據れば日本銀行は正貨準備の四分の一以内は銀貨銀塊を所有して引換準備に充つるを得るの定なり近頃の兌換券週報に就て見るに所有の銀は八千萬餘圓の正貨準備〓内にて二百七十萬圓内外に過ぎざれ共昨今〓〓〓が引換〓圓銀の處分に窮し居るは明白の〓〓〓〓〓〓〓て日本〓〓〓〓の上、舊銀〓〓〓〓〓〓〓〓が正貨〓〓〓〓〓〓〓の困難〓〓〓〓〓〓〓は當〓〓〓〓〓希望する〓〓る〓〓〓〓〓〓が之〓〓して如何なる處置を得ずや大に注意を要する所なり元來圓銀の通用期限はいよいよ來る四月一日限にして現行の法律に據れば引換期限は同日より起算して滿五箇年の定めなれ共政府の意嚮より察すれば結局三箇月内外に短縮せらるゝは必然の成行なるを以て圓銀は遠からずして貨幣たる資格を失ひ銀塊と同じく時々の相場に由て價格に意外の變動を招かざるを得ず日本銀行が正貨準備を所有する主旨は兌換券の信用を維持して其流通を安全にするに外ならざれば金に對して常に價格の變動する銀貨銀塊を準備に加へて意外の危險を被むらんとするが如き策の得たるものと云ふ可らず兌換制度の基礎を牽固にせんとならば假令ひ條例に如何なる規定ありとも引換期限内に一切の銀貨銀塊を金貨と引換へ金貨準備の充實を謀るこそ適當の處置なる可し或は今後銀貨が騰貴して金に對して三二、三四以上の相場を保つこともあらんには日本銀行は銀貨準備を所有するが爲めに自から利益を收むるを得れども斯る投機に類する掛引は中央銀行の本質より見て斷じて行ふ可きに非ず又實際倫敦銀塊相場の前途を考ふるに露西亞に於て弊制改革の歩を進むると共に補助貨鑄造の爲めに多額の銀を需要し從て價格の騰貴を見るやも計り難けれども固より一時の事なれば早晩その下落を招くは必然の勢なるのみならず東洋諸國の需要の著しく減少したる今日に於ては容易に銀貨の恢復を望む能はざる可し現にオツトーマルクハウプト氏の如き銀貨は今後九片内外に下落する旨を斷言したり果して斯る相場を呈するや否やは豫想に苦しむ所なれども兔に角、他に異變の生ぜざる限りは銀價の下落は到底免かれ難き所なるを以て日本銀行が永く準備として銀を所有するときは結局兌換制度の基礎を薄弱ならしむる可きのみ英蘭銀行が千八百四十四年の銀行條例に於て正貨準備の五分の一は銀を以て充つるの許可を得たるにも拘はらず實際に銀準備を置きたる例なきは要するに銀價變動の影響を恐るゝが爲めに外ならず昨年合衆國の委員が萬圓複本位制の成立に關して英國政府と談判を試みたる際に英蘭銀行をして條例の制限までは銀準備を所有せしむ可しとの議論起り又現内閣の一員なるゴツシエン氏の如き年來この説に贊成の由なれども是は銀價が六十片に騰貴して金に對して一と一五、半の割合を保ちたる場合に行はんと云ふに在りて下落の傾ある銀を準備に加ふるの趣意に非ず銀價下落の爲めに所有の銀の價に變動を招きて意外の困難を被るは今日合衆國政府を始めとして大陸諸國の中央銀行が明に實驗する所なれば政府も篤と此邊の利害を調べ一時の損失を免れんが爲めに日本銀行の正貨準備に銀貨を加ふるなどの拙策は斷じて思ひ止まる可く又日本銀行の當局者たるものは速に銀貨を金貨に換へて今後の困難を免かるゝこそ肝要なる可し事、少なるが如くなれども兌換制度の安否に關係する所小なしと云ふ可らず我輩が一言して雙方の注意を望む所以なり