「財政整理の道如何」
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時事新報に掲載された「財政整理の道如何」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
財政整理の道如何
戰後經營の財源に充てんが爲め政府は第九議會の協贊を經て酒税營業税登録税の諸法を制定すると同時に從來の煙草税を廢止して新に葉煙草專賣法を設けたり實施の日尚ほ淺くして前途を豫想するは困難なれども今日までの經過に就て見れば實施の結果甚だ妙ならずして酒税を除けば他の收入は孰れも當初の豫定額に達する能はず現に三十一年度の豫算案に據れば登録税は五百十一萬六千餘圓營業税は五百七十六萬九千餘圓の收入にして豫定額に比すればおのおの百七十萬圓内外の減少を示したり或は昨年四月以來登録税の内にて戸籍に關する項目を削除したるを以て收入に多少の減少を見るは世間の一般に認むる所なれども營業税の收入が實際政府に於て徴收上種々苛酷の手段を施すと云ふにも拘はらず右の如き不足を呈するに至ては當局者の違算も亦甚だしと云はざる可らず又葉煙草專賣法の如きは本年一月以後實施せられたるものなれば今後如何なる改良進歩を見るやは容易に知り難けれども三十一年度の豫算案に據れば收入は七百三十萬圓にして豫定額より三百萬餘圓を減ずる計算なり而して右の收入より專賣法實施の結果として廢止せられたる煙草税の收入專賣事務費〓に專賣資金の利子等を控除するときは差引三百五萬五千餘圓にして斯る些細の收入を增加せんが爲めに煙草税を廢止して殊更らに弊害多き專賣法を實施するの必要何れにありや我輩の了解に苦しむ所のものなり殊に關税定率法實施の暁に於ても内外煙草税の負擔は甚だ不平均なるを以て外國産煙草の輸入增加して專賣法の收益を減殺するの掛念あるは勿論内國産の葉煙草が原料として外國へ輸出せられ製造の上内地へ再輸入するもの少なからずと云ふ專賣法の收入に就て種々の疑念を生じたる所以なり抑も政府が目下計畫中の軍備擴張を始め其他の新事業は償金の繰入、公債の募集に依て完成し新税の收入は專ら一般行政費の增加に應ずる計畫なれば右の如く收入に不足を告ぐるに於ては假令ひ酒税の收入が豫定額より多少增加したりとするも到底財政上に破綻を免かる可らず財政當局者は就任以來財政の整理を計畫して結局蔵計に四千六百萬圓を削減したる由なれども其眞意は公債の募集額を減少して目下の困難を免かれんと云ふに外ならず若しも殘餘の額にして募集せられんには收支相償ふを得ることならんなれども本來當局者が繼續事業費に削減を加ふるを得たるは毫も事業縮少の結果にあらずして單に年度割を變更したるに過ぎざれば豫定の時期までに事業を完成せんには適當の財源を求めて必要に應ぜしめざる可らず公債募集の如き其一法にして從來當局者が依賴したる所なれども經濟社会が常態に復して金融逼迫の勢を緩めざる以上は豫定の募集に困難を感ずるは必然の成行と云ふ可し財政の前途には啻に斯る困難あるのみならず差し當り新税の違算は如何にして善後の處置を施す可きや一般行政費を削減するが如き其道に外ならざれども軍備擴張其他の事業の進むに從て行政費の增加は已むを得ざる所にして殊に物價騰貴の餘勢の止まざる塲合に大に其削減を謀るは到底企て及ぶ所に非ざる可し繼續事業の年度割を變更するが如き一時の困難を免かるゝの効こそあれ財政の全體より見れば未だ整理の實を收めたるものと云ふ可らず即ち增税の必要なる所以にして之に依て確實の財源を求め從來の實驗に徴して不良と認むる税法を改廢してこそ始めて眞に整理の効を擧ぐるものと云ふ可けれ當局者は之に就て如何なる計畫を立てんとするや財政整否の眼目は此一點にして世人の注意を要する所なり