「增税の方法」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「增税の方法」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

增税の方法

政府にして眞實財政整理の目的を達せんとならば單に繼續事業費の年度割を變更して公債募集の爲めに生ずる目前の困難を除くに止まらず大に租税を增徴して經常蔵人を增加し葉煙草專賣〓に新税の收入不足を補ふ他の一方には税法全體に改良を施して不良の税を廢止するの必要あるは世間に異論を見ざる所なれども扨いよいよ增税を斷行するに當て税源は何れに求む可きや政府部内に於ては目下此邊に就て調査中の由なれども我輩の所見を以てすれば當局者が既に增税の必要を認めたる以上は其方法などに就て深く考ふるまでもなく差し當り今後增收の見込、最も確實なる酒税を取るこそ適〓の處置なりと信ずるものなり抑も間接税を課するに當て注意を要するは課税の爲めに物價の騰貴を促して結局世間の需要を減少するの恐なきや否やの一點に外ならず若しも斯る掛念あらんには斷然課税を思ひ止まるのみなれども我國酒税の實際に就て見るに今後多少の增率を行ひたればとて需要を感じて醸造高に意外の影響を及ぼすが如き事なきは勿論却て增收の餘裕あるは我輩の斷じて保證する所なり現に第九議會に於て制定したる諸税法の内にて營業税登録税の如きは到底豫定の收入を得る能はざるに反して酒税のみが豫定以外に非常の增收を呈したるを見るも此邊の事情を推察するに餘りありといふ可し或は目下の實際に歳入の增加は必要なりとして增税は止むを得ずとするも其增税は國民一般に負擔せしむ可し獨り酒造家に重くするは甚だ偏頗なりとの説もあらんなれども酒價の騰貴にも拘はらず清酒の需要にして減ぜずとすれば酒造家は酒税の增す割合に其價を高くして之を需要者より收むるを得るが故に酒税の增加は決して酒造家を苦しむるものに非ず飲酒は人間の嗜好中最も大なるものにして社會の繁昌に連れて其量を增し酒税の收入いよいよ增加して減少の恐なき次第は我輩の屡々述べたる所にして當局者も大凡そ此邊の道理を了解し居る筈なれば實際增税を斷行するに當ては酒税增徴の手段に出づることならん既に增税の方針にして斯く一決したる以上は政府は今度の臨時議會に酒税の改正案を提出して其協贊を求む可し盖し增税の一事は從來政府が世間の反對を恐れて斷行に躊躇する所なれども財政整理の實を收むるには之を外にして他に道なき次第は甚だ明白にして世論の認むる所なれば增税案の通過は疑を容る可らず〓〓〓〓國の酒税の如く收入甚豊なるものに〓〓〓納税者に及ぼす影響も多きを以て少〓〓〓六箇月以前に增税の詳細を公にして納税者に用意の時日を與へざる可らず即ち臨時議會に議案を提出するの必要なる所以にして又政府自身の利害より見るも眞に增税の一事を斷行するに意あらば政治上の問題に就て議會の反對なき今日に於て其即決を求め財政の基礎を鞏固にするこそ策の得たるものと云ふ可け我輩が決斷を促す所以なり