「造船奬勵の一法」
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時事新報に掲載された「造船奬勵の一法」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
一昨年十月造船奬勵法の實施以來我國の造船業は非常に發達し昨今は私立の造船所にして一千噸以上の汽船を製造するもの少なからず殊に近頃三菱造船所は六千噸の鋼鐵汽船を製造して倫敦のロイド協會の證明を求めたるに協會の高等視檢役は〓と船體を檢査して最高〓〓〓の證明書を與へたる其上に工事は勿論機械の裝置に至るまで英國大造船所の製造に〓ら〓る旨の判斷を下したりと云ふ斯る大汽〓〓製造は〓〓我國に類を見ざる所なれば成〓の如何は工事着手の際より當業者を始め世〓一般の氣〓ひたる所なるにも拘はらず右の如き證明を得た〓ば全く造船業進歩の證據と云はざる可らず今後技師職工の技倆にして進歩せんには次第に外國の造船業と競爭して勝を制するも難きに非ざる可し然らば彼等の技倆を熟練せしむるの道如何と云ふに本來多年勉強の結果に出づるものなれば一朝一夕にして其發達を望むは甚だ困難なるが如くなれども我輩の所見を以てすれば政府が私立の造船所をして軍艦を製造せしむるは奬勵の一策にして効能少なからざる可しと信ずるものなり從來政府が軍艦を製造するに當り外國の造船所に注文せざれば内國の官設造船所に命ずるのみにして廣く私立の造船所に託したることなきは我國の造船業、尚ほ幼稚にして製造の功を完うする力なしとの考に出づるものならんなれども既に發達の事實にして右の如くなりとすれば今後は私立の造船所に充分の信用を置き甲鐵戰鬪艦の製造は兎も角も巡洋艦海防艦の類は之に製造を託して差支なかる可し或は造艦費の如き外國製造のものに比すれば高きやも計り難けれども造船業を獨立せしむるが爲めには多少の相違は問ふ可きに非ず回航の費用と手數とを除かんには或は低價に製造するを得るも知る可らず〓に海軍の當局者にして多少の〓〓を加へんには官設造船所の製造に比して工事に不都合を見ざるは我輩の保證する所にして早く斯る例を開かんには有事の際に自由に内國に於て軍艦を製造するの辨を開くを得る他の一方には技師職工の技倆を進めて造船業の發達を奬勵するを得るは疑を容れざる所なり現に英國の造船業が今日の盛况に達したる其原因は全く政府が斯る方針を以て私立造船所の技倆を熟練せしめたる一事にありと云へば我政府も此例に傚ひ信用ある造船所をして軍艦を製造せしめて造船業の獨立を謀る可し我輩の敢て勸告する所なり