「東京株式取引所の改造」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「東京株式取引所の改造」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

東京株式取引所の改造

今回の炭礦買占破綻事件に對する株式取引所の處置は果して其當を得たるものなりや否は

は別問題として二十餘日の間公開市塲を閉鎖し株式賣買の機會を失はしめたるは實に取引

所の失態と云はざる可からざるのみか今回の事件に依て組織の不完全なる定款の不備なる

殆んど公開市塲たるの實なく取引所法の精神に違反せるものあるを暴露せしこそ是非なけ

れ本來取引所の目的は直取引、延取引及び定期取引を問はず實物の賣買を目的とするもの

なるに今の取引所の目的は實物の取引に非ずして相塲の賣買即ち投機一偏に在りと云ふも

可なり其次第を述べんに取引所法第二十二條に株式會社組織の取引所は賣會取引の違約よ

り生ずる損害に付き賠償の責に任ず可しとあり即ち取引所は仲買人の賣買取引に對して擔

保の責を負ひ又其相手方に對して賣買の責を負ひ萬一相手方違約の塲合には自から其損害

の賠償をなす可きものにして其目的は賣買取引を安全に完結せしむるに在るや云ふまでも

なし勅令第七十四號第十三條中に契約期限内に於てなしたる轉賣買戻を取引所の帳簿に記

載する所により相殺するの方法とあるは取引上、一の便法として設けたるに過ぎず轉賣買

戻は决して取引の目的に非ざるなり然るに取引所の定款を見るに各種の取引に關し夫れ夫

れ違約處分の條文はあれども其條文は極めて不完全にして今回の事件の如く定期取引の受

渡定刻に買方が違約せしのみならず其結果として中、先兩期に對しても違約せし塲合に處

するの明文なく且つ其處分たるや定期取引の約定に對し諸證據金の差入を怠る者あるとき

は其違約人の賣買約定高を五日以内に於て特に仲買人を選擇し轉賣又は買戻を爲さしむと

あるの外は當日の公定相塲或は三日間若しくは十日間の平均直段と其賣買約定直段とを對

照して計算し其不足金を賠償するに過ぎず其相手方が違約の為めに蒙むる可き他の損害に

就ては取引所は毫も責を負はざるなり例へば今或る人が或る株券一萬株を他より買受けて

一方には四月限の定期に於て之を賣らんとするに買ふたる株は受取らざるを得ず賣りたる

株は渡すこと能はざるのみならず十日間の平均直段に依て計算さるゝとせんには此人は正

當に賣買して充分に利益を見るべき塲合にてありながら〓〓は〓て大損失を蒙むることあ

る可し其〓〓〓〓〓〓〓は少なしとせず實に〓危險車〓の〓〓〓し〓百萬の資本株券を有

する〓〓〓〓〓〓〓〓ありと知りながら取引所に於て賣買〓〓〓の少なきは尤もの次第と

云〓〓し〓に〓〓まで取引所内にて公開せし〓取引の如きは預合或は解合の方法に依て其

日々々の計算は爲せども實物の受渡は殆んど行はれたることなし假りに一歩を讓りて今の

定款に依て取引所は能く擔保の責を全うするものとするも僅々百二三十萬圓の資本金、十

餘萬圓の準備積立金を以て能く其責を全うし得べきや否や日清戰爭後新會社は勃興し舊會

社は其資本を增したる爲め株券の數は戰爭前に倍〓〔草冠+徒〕し隨て取引に上る物件は

大に增加したるを見て株式取引所が其資本を增し其市塲を新築したるは可なれども定款の

不備不完全なるには毫も気附かず又その基礎を鞏固にし擔保の責を重くして賣買取引を安

全ならしめんことには頓着せず三割乃至五割など云ふ格外の収益は盡く株主に配當して何

程の準備積立をもなさず今回の如き事件に際して周章狼狽する其有樣は恰も火災保險會社

が保險料を取立て其取立てたる保險料は遠慮なく之を株主に配當し盡して一朝大火に逢へ

ば種々の故障を附けて保險金を支拂はず已むを得ざれば資本金を以て支辨せんとするに異

ならず今回の事件の起るや取引所の理事者は其餘波一般の經濟界に及ぶ可しとの口實を以

て成る可く諸株の暴落を喰止めんとし所謂解合に依て難局を落着せしめんとしたれども取

引所は一般經濟界に對して毫も責任あるものに非ず買方失敗の為めに其株の暴落するは固

より其處にして此際取引所は斯る入らざる世話を燒かず相手の賣方に對して充分の責を盡

せば可なり其責を盡さんが爲めには取引所の資本を投出すも可なり要は唯其責を盡すにあ

るのみ然るに言を左右に託して時々刻々活動する株式市塲を廿餘日の間閉鎖し置きながら

擔保の責を全うすること能はざるは則ち其組織の不完全、定款の不備に因るものと云はざ

るを得ず今日までの市塲に對して尚ほ且つ然るりとすれば今後我經濟界のますます發達進

歩すると共に市塲の取引高大に增加するは無論外國人などがいよいよ資本を市塲に注入す

るの曉に至らば如何す可きや其賣買取引を安全ならしめざる可らざると同時に今の取引所

の組織を改正するの必要は明白なりと云ふべし

然らば取引所の組織は如何にせば可なりやと云ふに詳細の事は之を當業者の意に任すとし

て第一擔保の責を重くして賣買を安全ならしめ第二其基礎を鞏固にし日本帝國の中央市塲

たる可き覺悟を以て組織を改む可きものとして其改正は目下の必要に迫るものなれども今

の取引所を改正すると共に尚ほ其設立區域を縮小して東京市中に少なくも二箇所以上の設

立を許す可し抑も東京株式取引所が今日まで斯る不完全なる組織に滿足して〓民の法を知

らざりしは畢竟此は競爭者なく廣き市中の賣買取引を一〓〓の專有に任せたるが爲め〓〓

ならざれば監督〓〓の權限に於て〓〓〓の地區を縮小し更らに設立を許すは取引所法の精

神に協ひたるものと云ふ可し前半東京及び大阪に於て今の株式取引所以外に有價證券直取

引市塲を設立せんとするの企あるや兩地の現取引所は聯合して大に反對運動をなしたる程

なれば地區縮小に就ても現取引所は自から反對を試みるならん而して其反對は專有の利益

を他に奪はれんことを恐るゝが爲めなる可しと雖も今の取引所に决して斯る專有權のある

べき筈なきのみならず他に競爭者の現はるゝが爲めに自己の利益を失はんとの恐れは一時

の杞憂に過ぎざる可し今東京に二個の取引所設立せられたりとするも其趣は恰も大阪、東

京の取引所が相對して共に繁昌するに同じく今の取引所は毫も營業を妨げられざるのみか

一方に賣りて一方に買ひ其間に駈引して利益を計るものもある可く自から賣買を機敏にし

て双方相應援して賣買の高ますます增加し取引いよいよ繁昌せんこと疑ある可らず今の營

業者は宜しく安心して他の權利を妨げず只管自己の取引市塲の改造を計る可きのみ我輩は

今回の事件を機會として取引所の改造を其當事者に望み取引所地區の縮小を當局者に促が

すものなり