「外資輸入の制限を解く可し」
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本文
外資輸入の制限を解く可し
外國との交通頻繁となりて内外金融市塲の關係密接するに從ひ政府が殊更らに人爲の干渉
を施さゞるも外資は自然に内國へ流入して金融を緩和し事業の發達を促すに至るは必然の
成行にして例へば日本銀行の金利が非常の高歩に騰貴すれば銀行なり事業家なり世間に多
少の信用あるものは之に依賴するを止め所有の公債其他の證券を抵當として低利に外資を
輸入するの結果を見る可し現に此程臺灣鐵道會社は英商より五分の利子にて百五十萬磅の
資金を借入るゝの約束を結たりと云ふ内國の金融市塲非常に逼迫して資金の欠乏を訴ふる
の折抦日本國人が格別の不利益をも見ずして借入の目的を達したるは事業進行の爲に此上
もなき好都合にして斯く外資が自然の道筋を經て輸入せらるゝ塲合には政府が巨額の外債
を募集して公債を償還するなどの輸入法と異なり經濟社會に急激の變動を與へざるは勿論
輸入の外資は盡く事業の要所に注入せられて充分の利殖を擧ぐるを得ることならん即ち我
輩が外資の輸入を自然の成行に一任す可しと云ふ所以にして今後内地の事業家が臺灣鐵道
會社の例に傚ひ政府の干渉を俟たずして次第に外國の資本家より低利の資金を借入れ内外
金融の共通を謀るこそ最も望ましき所なれども此目的を果さんには先づ政府に於て外資輸
入に關する制限を除いて大に門戸を開かざる可らず其方法として第一に必要なるは外人政
府が特に法律を以て外人に日本銀行正金銀行鑛業會社並に取引所の株式所有を禁止する他
の一方には海運造船業に關係の會社にして法定の奬勵金を得んとするものは外人を株主と
爲すを得ざるなど窮窟の規定を設けたる其主旨は右の諸會社は政府より種々の特權若しく
は奬勵金を與へらるゝを以て外人を株主と爲すときは彼等をして保護の利益に浴せしむる
の不都合を免かれざるのみか資力の豐なる外人が大に資金を輸入して諸會社の株式を買占
めんには彼等の爲めに營業を左右せらるゝの結果を見る可ければ寧ろ株主を内國人のみに
限る可しとの考に出でたるものならん又改正條約實施の曉に外人が大に鐵道會社の株を買
収すれば有事の際に鐵道を軍事上の用に供し難きの掛念あれば今日に於て國有鐵道の主義
を取る可しと唱ふる者あれども斯の如きは實際に通ぜざる迂濶の議論にして例へば日本銀
行に紙幣發行の特權あるが爲め銀行の収益甚だ豐なりとあれば其株式の價格が他に比して
自から高價を保つ可きは必然の成行にして外人の需要にして多ければいよいよ價格の騰貴
を促し結局彼等をして株式を買収するなどの愚を思ひ止まらしむるに至る可し外人が如何
に低利に資金を融通するの餘地を有すればとて殊更らに價格を騰貴せしめて大會社の株式
を買占むるが如きは到底實際に行ひ難き所にして若しも商機に暗き輩が斯る事を行はんに
は從來の所有者は非常の高價にて株式を賣却するを得るを以て結局内地に資金の供給を豐
にするの効ありと云ふ可し或は漫に外國の資本を輸入するときは其結果遂に彼等の干渉を
招て獨立の實を傷くるに至る可しなど掛念する者もあれども是れは埃及朝鮮の如き未開國
の事のみ世界の一強國を以て目せらるゝ我國に於て斯る掛念は萬々ある可らず我輩の斷じ
て保證する所にして現に改正條約に於ては明に外人の動産所有權を認めたる次第なれば政
府も成る可く古風の考を去りて外人に一切の株式を所有せしむるは勿論、土地の如きも所
有を許して差支なかる可し即ち自然に外資輸入の道を開く所以にして實業家の輩も政府に
依賴して輸入の目的を達せんと云ふが如き到底實行の見込なき事に狂奔するを止め速に政
府を促して實際輸入の妨害となる種々の制限を除かしめ自己の伎倆に依て事を謀る可きの
み