「日英同盟」
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時事新報に掲載された「日英同盟」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
日英同盟
多年孤立したる英國も近來漸く政友を求むるの必要を感ずるに至りしが如し殖民大臣チエ
ーンバレン氏はアングロサキソン同盟の急務を演説すると共に支那問題に關して英國と事
を共にするものを見出さゞる可らずと云ひ又總理大臣ソールズベリー侯は日本と提携した
る顛末を發表したるよし盖し日英交際の親密なるは一朝一夕に非ず日本が英國の友とす可
きを思ふと共に英政府も亦我に好意を表する其證據は例へば條約改正に付て第一に我希望
を容れたる者は英國にして他の諸國との改正談判が容易に行はれしは實に其好意に因るも
のと云はざるを得ず次に露佛獨の三國は同盟して遼東還附を日本に迫りしかども英國は其
同盟に加はらず我をして戰勝の光榮を全うせしめんとしたるも亦日本人の永く忘れざる所
のものなり既往の交情かくの如くなるが上に支那問題に付て互に利害を同うする其次第は
英の對清政策を察するに只商賣貿易の利を利せんとするのみにして敢て土地を侵略して其
獨立を危うせんとするの意なきは明白なり曾て大藏大臣マイケル ヒツクスピーチ氏は公
會の席に演説して曰く英國は毫も支那の領土を占領するの志なし只商業の爲めに其門戸を
開かしめんと欲するのみと英國の眞の利益は支那を保存して之を文明に導くに在る可し其
今日威海衛を占領したるは版圖を擴張せんが爲めに非ず他國の侵略に對して均勢を保たん
とするの意に外ならざるは世人の察するに難からざる所なる可し而して日本の方針は如何
と云ふに恰も英國と符節を合するが如し敢て支那の領分を蠶食するの野心なきは勿論にし
て望む所のものは只その國を開いて獨立の實を全うせしむるに在るのみ支那にして一たび
列國の割據する所と爲らんか日本は恰も歐洲の中原に國を移したると同樣にして自から立
國の難きを感ずるに反して四百餘州が文明の風に靡きて共に方向を共にするに至れば商賣
上互に利する所大なるのみならず東洋の平和を維持するも亦容易なる可し自家の利害に訴
ふるも日本は老帝國の保全を計らざるを得ず即ち日英兩國は極東問題に對して全く利害を
同うするものにして今日相共に提携するは自然の勢と云ふ可し或は英の海軍は世界無數な
り必ずしも他の助力を要せざるが如くなれども列国がいよいよ野心を逞うして支那内地に
手〓〓さんとするが如きことあらば英國〓自〓〓〓〓の足らざるを發見することのある〓
し〓〓〓〓〓相應〓〓〓〓〓〓〓〓上に〓〓〓〓〓〓〓並に〓〓〓〓〓〓一たび〓〓〓〓
〓〓〓〓〓學の〓〓〓〓〓〓へざれども〓〓〓〓〓如何に依ては又或は不如意を感ずるこ
となしと云ふ可らず果してチエーンバレン氏の演説の如く支那問題は尚ほ未定にして重要
なる時機は他日に蓄へらるゝものとすれば日英同盟の必要はますます明白なりと云ふ可し
然れども今日は未だ眞の同盟を見るに至らず英國總理の演説は電文簡にして詳細を知るに
由なしと雖も盖し威海衛その他臨時の問題に關して日本と協議したりと云ふに過ぎざるこ
とならん一時の協議と永久の同盟とは自から別にしていよいよ鞏固なる同盟を作らんには
只その希望を表明するに止まらずしてますます國力を養はざる可らず國力さへ備はれば同
盟は求めずして來る可し獨佛の二國が頻りに露の歡心を求め何の怨もなき日本に對して三
國同盟を作りしが如き只露の兵力の強きが爲めのみ今日々英の提携談を聞くは我輩の甚だ
喜ぶ所なれども一歩を進めて眞の同盟をして招かずして來らしむるの工夫あらんことを望
むものなり