「鐵道國有論の前途」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「鐵道國有論の前途」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

鐵道國有論の前途

旦に鐵道國有論を唱へ夕に拂下説を主張するが如き如何にも無定見にして只識者の笑を買

ふに過ぎずとは我輩が前日の紙上に論じたる所なり然るに此頃聞く所に據れば或る黨派よ

りいよいよ今度の議會に私設鐵道買収の建議案を提出するよしにて提出すれば通過の〓込

ありと云ふ只驚くの外なし盖し論者の口實は一にして足らざる可けれども要するに目下の

金融逼迫を救はんが爲めにして一時の金融の爲めに鐵道の國有を斷ぜんとするは恰も昨今

東京が雨天勝ちにて鬱陶しければとて直に家を擧て大阪に轉居せんとするに異ならず天氣

は屡々變ずるの例にして今日雨降るも明日は晴天と爲ることもある可し然るに家を移すは

一門の大事なり永く東京に止まる方が便利なるか將た大阪に引越して家業繁昌す可きか篤

と考へたる上に非ざれば决するを得ず一時の都合の爲めに永久の利害を速斷するは愚と云

ふ可し且つ目下の經濟界は果して政府の救助を要するや否や此〓外資を入るれば或は物價

はいよいよ騰貴して金融ますます逼迫するやも知る可らず假に一歩を讓て資金供給の必要

ありとするも別に手段なきに非ず即ち外債を募集して内債を償還するが如き其一法にして

或は外債を募るまでもなく差當り手元にある償金を流用するも可なり必ずしも鐵道買収の

窮策に訴ふるを要せざるのみか元來買収は口に云ふ可くして實際に行ふこと難し買ふ者は

成る可く安く買はんと欲するに反して賣る者は一錢にても高く賣らんと欲するが故に政府

が金を用意していよいよ買はんとすれば法外なる直段を申出して相談〓到底〓まらざるこ

とならん假令ひ直段は折合ふとしても今の仕組にては逓信省が之を引受くること能はざる

は知れ切たることなり目下政府の鐵道は僅々六七百哩に過ぎざれども當局者は是れすら持

て餘すほどの次第にして何れの線にも苦情多きが中にも信越線の如きは特に甚だしく乘客

の不便、貨物の澁滯は多年の問題なるにも拘はらず今以て必要の車倆をも增さず施す可き

改良をも施さずして東京より長野に荷物を送るには二三十日を要すもの〓なり〓〓〓〓れ

ばいよいよ全國の〓〓〓〓〓を〓政するには官制を改正して鐵道省でも〓〓可き〓〓の官

廳を設くると共に會計法の如きも改めざる可らず〓立の會社ならば必要に應じて增株を募

り又は〓〓を起して〓〓〓〓〓〓張する〓と〓〓〓〓も今の遞信〓〓〓〓〓〓〓自由〓し

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓たりとも〓〓に〓〓〓〓〓は〓入〓〓〓〓〓一切議會に

求めざるを得ず然るに議會は往々にして不同意を唱ふることあるのみならず又屡々解散せ

られて協賛を與ふるによしなく政府は前年度の豫算に依らざるを得ずして爲めに鐵道なり

電話なり思ひながら改良を怠りたる實例に乏しからず敏活を要する交通機關を擧て窮窟な

る法律の下に置くは不便至極なればいよいよ國有論を實行せんには鐵道の會計を獨立せし

めて別に面倒なる手續を要せず随時必要の資金を得るの道を開かざる可らず此邊の考もな

く只漫然國有論を主張するは無責任の甚だしきものなり特に一方に於ては頻りに官設鐵道

の不行屆を攻撃しながら他の一面に於て私線の買収を唱ふるは恰も火を掴めば火傷するぞ

と云ひつゝ自から火に投ずるが如し殆んど本氣の沙汰とは思はれず要するに鐵道買収は一

時の出來心より輕卒に决す可き問題に非ず假令ひ議會を通過すればとて當局者は採用する

ことなからんなれども斯る建議案が今日議會に提出せらるゝは既に妙ならず我輩の重ねて

反省を促す所以なり