「三十二年度の財政」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「三十二年度の財政」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

三十二年度の財政

政府にして眞實財政整理の目的を達せんとならば增税を除て他に適當の手段なき次第は我輩が〓々論じたる所にして當局者も其必要を認め臨時議會に增税案を提出したれども增税の方法宜しきを得ざりしが爲めに衆議院を〓〓す〓〓〓ず結局〓〓と共に立消と爲れり本年度の〓〓に於て歳入の不足は償金を流用して一切の〓〓〓充つるの〓〓なれば增税案立消の〓〓〓〓〓を〓〓〓〓〓〓かる可しと〓〓〓〓年度の財政計畫に至ては增税の収入に依頼す可きもの少なからざるを以て到底多少の破綻を免かれざる可し當局者の説明に據れば明年度の普通歳入は歳出と比較して百五十萬圓内外の餘裕を生ずる由なれども此外に新に支辨を要する經費の總額は決して少しと云ふ可らず臺灣諸經費の補足を始めとして公債償還の增額物價騰貴に伴ふ一般行政費の增加改正條約實施に伴ふ新事業費の如きは其重なる者にして總計三千七百萬圓に上る見込なれば結局歳計全體に於て三千五百萬圓内外の歳入不足を見るものと覺悟せざる可らず目下の實際に於て增税の急務なる所以にして政府が其斷行を決心したるも畢竟この邊の必要に迫られたるものならんなれども既に其不成立と定まりたる以上は如何なる邊に財源を求めて豫定の計畫を完成するの考なるや假りに次期の議會に再び增税案を提出して兩院の協賛を得たりとするも明年十月前後に至らざれば到底その實施を望む能はず從て增税に依頼して明年度の財政を維持するは思ひも寄らざる所にして他に相當の財源を求めざる可らず或は從來の慣手段より推察すれば政府は一時償金を流用して歳入の不足を補ふことならんなれども償金の現在高より本年度の豫算に於て使用す可き高を差引くときは明年度の始に於ける殘額は五千三百四十五萬圓内外に過ぎず此内より同年度の償金繰入高三千百八十一萬圓并に公債募集の繰替高千二百廿五萬圓を差引くときは實際卅二年度の歳計補足に充つるを得る高は九百三十八萬圓に止まる可し償金の永く依頼するに足らざる所以にして假令ひ其全額を流用して一時の急に應ずる他の一方には財政計畫より公債償還の增額七百萬圓を削減すると同時に普通の償還(三十二年度の豫算は七百四十萬圓なり)を停止するも尚ほ歳出入の平均を求むる能はざるは數字の證明する所なれば政府にして豫定の計畫を改めざる限りは結局明年度早々公債を外國市塲に賣出すか或は外債を募集するか孰れにしても外資輸入の方針に出でざる可らず實際已むを得ざる成行にして政府に於ても既に此邊の必要を認めて公債條例の改正を企てたる次第なれども若しも外國の資本家にして財政不整理の實情を知らんには果して此方の望むが如き好都合の條件を以て輸入の目的を達するや否や甚だ疑はしき所なり假りに輸入の效を奏したりとするも經常費の財源を外資に求むるは財政上、策の得たるものに非ざるのみか本來增税の収入に依て支辨す可き經費をば外資に依て支辨するときはいよいよ經濟社會の機能を激成して財政整理の目的を果すに當て非常の困難を抱かざるを得ざる可し斯る成行を見るに至りたるは全く政府が不完全なる増税案を提出して議會の同意を得る能はざりし結果に外ならず當局者が地租増徴を外にして財政整理の實を収め難しなど途方もなき考を抱きて地租案を固執したるこそ失策の原因にして若しも當初より我輩の所説に從ひ地租所得税等の增率を止めにして增収の餘裕最も豐なる酒税に依頼するの方針を取りたらんには世間の物議を招かずして增税の目的を達し財政の基礎を堅固にするを得たりしならん當局者は頻りに財政整理の必要を説きながら實際に其整理を妨げたるの譏を免かれざる可し增税の必要は今後ますます其急を告ぐるを以て篤と今度の失敗に鑑み次期の議會には完全の案を提出して一日も速に財政の整理を謀る可し我輩の切に勸告する所なり