「政府黨組織の頓挫」
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時事新報に掲載された「政府黨組織の頓挫」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
政府黨組織の頓挫
政府黨組織の計畫は次第に歩を進めつゝありしに初め熱心に此擧を賛成したる實業家の中
には將來永く一定の政黨員と進退を共にするの困難を察して漸く厭氣を催ほすものありて
折角の計畫も實行覺束なき有樣と爲りしと云ふ果して眞ならば誠に遺憾と云はざる可らず
忽にして思ひ立ち又忽にして中止するが如き如何にも輕卒にして政府の信用を損するのみ
ならず第一目前の困難を如何にして陵ぎ可きや在野黨は雌雄を一擧に决せんとて合同する
ほどの勢なれば若しも自然の成行に放任せんには次の議會には自から多數の議員を出すこ
とならん當局者は何を以て之に當らんとするか在野の政黨界は總て一色なり互に爭ふもの
なければ最早や例の操り策を行ふに由なし且つ既に合同の上は選擧塲裡に於ても自から民
黨の便利多かる可きが故に解散の聲も反對の氣焔を制するに足らずして政府はますます難
局に陷る可し或は斯る塲合には颯々と辭職せんのみと云はんかなれども辭職は本來政治家
の名譽に非ざるのみか今や外交は方に多事なり國中あらん限りの智慧を絞て事に當る可き
の時に際して兎も角も經驗に富める老政客を去らしむるは國の利益に非ず且つ現内閣辭し
て政權を民黨に讓れば相應の政府を作るに相違なしと雖も民黨政府も到底久しきを持する
こと能はず程なく倒れたる後は又々現在の當局者が出づ可き順番と爲ることならん其時に
當て味方の政黨なければ施政の困難は猶ほ今日の如くなる可し政黨組織は免る可らざる義
務にして着々歩を進む可き筈なるに然るに今や頓挫して振はずと云ふ誠に遺憾至極なれど
も如何にしても出來ぬとならば致方なし此上は只民黨と合體の方針を取る可きのみ民黨は
合同新に成て其鼻呼吸甚だ荒し形式ばかりの讓歩にては容易に折合はざることならんなれ
ども藩閥長老の勢力も尚ほ侮る可らざるものありいよいよ死物狂ひと爲りて暴れ廻はれば
民黨も一時は大に苦痛を感ず可きのみならず強ひて之を押倒し得たりとするも自から政權
を握るには多少困難の事情もある可し此邊の消息は政客の解するに難からざる所にして且
つ是れまで政黨を度外視したる無分別の老輩も政界の近状に徴して漸く其侮る可らざるを
悟り政府黨の組織を希望するまでに進歩したることなれば此際民黨の勢力を認めて相當に
讓歩するも苦情なかる可し官民の調和必ずしも難からず自から政黨を作ること能はずんば
則ち既成の政黨に合す可きのみ目前の急を救ふの策は此外にある可らず斷じて進む能はず
又退くを得ず空しく立往生するが如きは我輩の取らざる所なり