「商工業者は政黨に入る可らず」
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時事新報に掲載された「商工業者は政黨に入る可らず」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
商工業者は政黨に入る可らず
新聞紙の報ずる所に據れば府下の商工業者は率先して政府黨組織に盡力せんとしたれども思ふ所ありて遂に其志を飜したりと云ふ是れまで商工業者が政治部門に顔出しもせず議會の議決を他の爲すがまゝに任じたるは不心得なれども左ればとて自から政黨に加盟するが如きは我輩の斷じて取らざる所なり今日の議會は所謂百姓議會にして自から商工業者の利害を重んずるの傾なきに非ず例へば過般の選擧法改正案に付ても政府が市を獨立の選擧票として人口五萬に付一名の議員を出し都部は八萬人に一名と定めたるは偶然に非ず商工業者の員數と農民とを比較するも又地租五圓以上を納むる者と同額の營業税を負擔する者との割合より算するも商工業者は凡そ三分の一の議員を出して至當にして三分の一を出すには町は獨立の選擧區と爲し難きが故に之を市に算入して五萬に一人と爲したる次第なるに然るに議院が之を修正して市の代表者を減じたるが如き以て事情の大概を察するに足る可し左れば商工業者も議會を以て餘所事とせず自から議塲に列して其利益を守護す可きは當然のことなれども一歩を進めて政黨に入るが如きは輕擧自から誤るものと云ふ可し元來商工業は政府の外に獨立す可きものにして時ならぬ黨派の〓〓に依て動搖せしむ可らず獨立は發達の基にして他の勢力に左右せらるゝものは到底繁昌するを得ず例へば學校の如き若しも教員生徒が政黨の仲間に入り内閣の更迭毎に其影響を受くる樣にては迚も學問教育の發達を期す可らず即ち帝國大學を獨立せしむ可しなどの議論あるも畢竟政變の動搖を避けんが爲めのみ左れば商工業をして政黨外に獨立せしめんとするも同樣の理由にして若しも商賣工業の人が黨援の名を以て一方に味方するときは同時に他の一方には敵を見る可し自家の本業に利害もなくして〓に〓を求む〓に非ずして何ぞや或は單獨に營業する者は損得共に自己の責任に歸して他人を〓〓せしむることなきが故に政黨の爲めに奔走して時を費し金を散するも勝手次第なりとするも會社銀行などに〓事する者には〓とて許す可らず會社銀行の目的は専ら利益を得るに〓り株主は唯業務の〓〓にして〓〓の多からんことを企望し役員は専心其〓を〓せしめんことを勤るの義務あるのみ然るに自己の物數寄に出るか若しくは〓に〓する〓〓上の〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓し〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓る〓〓〓〓〓〓〓〓の〓〓に〓〓〓〓〓〓が〓〓〓〓〓〓の〓に止まらず〓〓〓するの〓〓〓〓るゝ者と云ふ可し左れば本人の好事よりしていよいよ朝野の政黨に加入とならば其身先づ實業界を脱して株主との縁を絶ち然る後に隨意の道樂を逞うす可し議會に其代表者を出すか或は自から出身して他の蹂躙を防ぐは固より至當の所置なれども民黨と云はず政府黨と云はず苟も黨派中の人と爲りて商工業の獨立を害するが如き我輩の斷じて取らざる所なり