「民黨政府の前途」
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本文
民黨政府の前途
内閣の壽命を豫測するの難きは猶ほ人の行末を卜するの難きが如し無病息災長命疑なしと
思ひし者が意外の難病に罹りて頓死するの例に乏しからず伊藤内閣が半歳にして倒る可し
とは何人も豫期せざりし所なり左れば民黨政府の前途固より知る可らざれども種々の方面
より觀察するに案外永續の望もなきに非ずと云ふ次第は其内閣を組織するに當て隨意に海
陸軍大臣を擇ぶ能はず他人の力に依賴して現任者を留任せしめたるが如き恰も部内に治外
法權の地を存するものにして慥に新政府の弱點に相違なし且つ其他の官省にても大小幾千
の官吏は何れも直接或は間接に藩閥の長老に引立てられ多年その恩顧に浴したる者にして
民黨とは赤の他人なれは今此黨派が政府を乘取て彼輩に接するは恰も他國を略して俄に異
種の人民に臨むが如く情意自から疎隔して施政に困難の塲合もある可し板垣の如きは此間
の消息を解するものにして過日或人に向て政府の官吏は藩閥の養成したる政黨にして中々
に有力あり政務官とか事務官とか區別すれども實際事務官が政務官を左右するの例なきに
非ず新内閣の組織容易に非ずと云ひたるよし亦以て事情を察するに足る可し然れども新内
閣の運命は主として仲間の結合如何に由て定まるものにして閣員、内に協力し議會外より
之を援くるに於ては何人も容易に動すを得ず民黨一致の力は政敵を倒したるの力にして政
敵を倒したる力は即ち以て自から守るに足るの力たる可し左れば其結合の強弱如何と云ふ
に自由進歩の兩黨は多年烈しく爭ひたるものにして容易に和す可らず今日相合するも明日
は又相離るゝことある可しと想像するもの少なからざれども至極親しき朋友が一旦反目す
れば非常に敵視する其反對に非常に敵視したる者が一朝偶然の機會に握手して無二の親友
と爲りし事例に乏しからざるのみか今や民黨は空前の大任を引受けたり即ち共同の心配、
共同の喜悦、共同の義務を增したるものにして自から和合の念を強くせざるを得ず維新の
當時薩長の兩藩は互に反目したれども天下の形勢〓〓ずるに從ひ互に協力して幕府を倒し
幕府倒れて自ら大政を引受くるやますます相親み兄弟の如く夫婦の如く一致して共に明治
政府を維持したり今日の事、恰も之に類する者あり民黨が薩長三十年の政府を乘取りたる
は猶ほ薩長が德川三百年の天下を受取りたるが如くにして其責任の重きを感ずるも〓〓な
りしとすれば一致〓〓の〓〓を感ずるの點に於ても亦相似たるものな〓〓〓〓多年爭ひた
るものなるが故に其〓〓〓〓なる可しと云ふ〓〓〓の見たるを免れず或は多數の黨員中に
は政府を乘取りたるに拘はらず何の得る所もなしとて竊に不平を鳴すものもある可く又或
は不平に堪へずして脱黨など申出づる者なきを期す可らざれども政府の局に當る者は黨名
か錚々の人物にして自から黨内の不平を制する力ある可きのみならず脱黨したればとて別
に利する所もなきが故に假令ひ紛議を生ずることあるにもせよ實際背き去る者は少數なる
可し現に舊自由黨の如き其境遇の變化に隨て屡々内訌を生じ脱黨分離の沙汰は毎度の事な
りしかども大體は遂に動かずして以て今日に至りしことなれば憲政黨も亦同樣なる可し總
じて政權を得たるが爲めに黨員中に得意なるもの及び得意者の勢力の下にあるもの多きか
將た失意なるもの及び失意者と進退を共にせんとするもの多きかと問はゞ何人も前者の多
きを答ふるに躊躇せざる可し亦以て政府の前途を察するに足れども尚ほ一層適切に云へば
今回の選擧に於て憲政黨の多數を占む可きは明白にして政府の議案即ち民黨の黨議は颯々
と通過することならん斯くて本年の議會を無事に通れば來年の議會までは先づ以て安心に
して何か意外の事件を生じて意外の失敗を招くに非ざれば其間に政府の倒るゝが如きこと
なかる可し要するに民黨政府は弱きが如くにして強き所多し世人の氣遣ふにも似ず案外永
持ちするやも知る可らず記して以て後日の實際に徴せんと欲するものなり