「財政整理の一法」
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本文
財政整理の一法
財政整理の爲めに增税の已む可らざるは明白の事實にして我輩が熱心に其斷行を主張する
所以なれどもいよいよ增税の曉に其収入の費途に就ては大に注意を加へざる可らず前内閣
は第十二議會に提出したる增税案に於て三千百萬餘圓の增収を謀りたる他の一方には収入
の内より七百萬圓を割て公債の償還に充て普通の償還額と合せて三十二年度以後年々千四
百萬圓の償還を行はんとしたれども此の如きは全く無用の經費にして增税案が世間の攻撃
を招きたるも此邊の欠點あるたるが爲めに外ならず當時財政の當局者が公債の償還を增加
するの必要を認めたるは之に依て金融市塲に資金を供給して逼迫の勢を緩和すると同時に
外國の資本家に我國財政の餘裕を示して公債の賣出しに便宜を與へんと云ふに外ならざり
しかども目下の金融逼迫は斯る區々たる小策に依て緩和し得べきものに非ず實際に何の効
能を見る能はざるは日本銀行の公債買入れと異なる所なかる可し又外資を輸入するに當て
財政の基礎を鞏固にして外人の信用を增進するの必要は疑を容れざる所なれども此邊の目
的を達せんとならば完全なる税法に依て確實に収入を得るの道を開くこそ適當の手段にし
て妄に公債の償還を增すが如き却て信用を傷くるの掛念なきに非ず現に外國資本家の内に
て我國の公債を買入るゝ者を見るに其目的は永く高利を収めんとするにあれば据置年限の
永きを望むの常にして即時に償還に接するなどは彼等の甚だ喜ばざる所なりと云ふ此邊の
事情をも顧みず前内閣の當局者が公債の償還を增して外國の資本家に信用を買はんと企て
たるが如きは非常の誤解にして公債の賣出しに依て外資を輸入せんとならば公債條例に改
正を加へて据置年限を永くすると同時に金貨償還の旨を約束して外國市塲に信用を博す可
きのみ新内閣の當局者は卅二年度の豫算を編成するに當て此點に就て如何なる方針に出づ
可きや償還高の增加は一部の實業家が熱心に希望する所にして或は當局者に於て此輩の所
説を容るゝやも知り難けれども我輩の所見を以てすれば明年以後一切公債の償還を停止し
て歳計の餘裕を謀るこそ目下財政の實際に〓して必要なりと信ずるものなり前内閣の財政
計畫に據れば三十二年度の償還額は千四百萬圓の豫算にして斷然償還を停止するときは歳
計に同額の餘裕を呈す可きを以て二千萬圓〓〓〓〓〓に依て〓〓の諸經費を〓め〓〓〓〓
〓〓〓〓、條約改正に〓〓〓事業費の如き〓〓に已むを得ざるもの〓〓〓して充分歳出〓
〓〓〓を〓むる〓〓〓し〓〓の如く近年邦〓〓〓〓〓に著しく邦民〓〓に納税の餘裕豐な
る塲合に當局者が妄に增税を企てゝ無用の事業を計畫するは免かれ難き弊にして却て財政
整理を妨ぐるやも知る可らず殊に今の財政計畫に於て三十八年度まで多額の公債を募集す
るの必要を見ながら一方に年々その償還を行はんとするが如き自家撞着の甚だしきものに
して非常の愚策と云ふの外なし我輩が其停止を主張する所以なり