「民黨政府の長所」
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本文
民黨政府の長所
新政府の前途甚だ多事にして施設す可きもの少なからざるが中にも特に官臭の一掃と財政
の始末とは其天職として是非とも成功を期す可き所のものなり元來藩閥の長老必ずしも無
能に非ざるのみか中には政治家として天晴れの人物もなきに非ず然るに年來不人望にして
思ふ存分に〓を揮ふこと能はず遂に行惱みて今回の政變を來したる所以のものは外ならず
人民の氣風は日に活發洒落と爲るに反して政府は次第に老大と爲り官民恰も別人種の如き
〓を呈するに至りしが爲めのみ老官吏の内には名實共に殿樣と爲りて空威張りするもの少
なからざるに連れ部下の小吏輩も自から橫風にして人民を輕蔑するの振舞ひ多し例へば郵
便電信の局員、郡區役所の小吏又は収税吏等何れも人民に直接する者なれば言語擧動を優
しくして唯正味の公用を達するのみに心を用ふ可き筈なるに實際は然らず傲然役人風を氣
取て恰も下民に臨み官邊の手續など不心得の者が何か尋ねんとして或は叱咤せられ又は怒
鳴り付けられるゝことなきに非ず婦女子の如きは其權幕に辟易して用を辨ぜず空しく立歸
ることもありと云ふ以て官海の氣風を察するに足る可し人民の不平は固より其所にして當
局者に於ても時に或は改良を思ひしこともあらんと雖も何分にも藩閥政府多年の痼疾にし
て自から改むるの難きは恰も支那人が阿片の毒を知りながら其喫煙を禁ずること能はざる
が如し即ち民黨政府の起りし第一の原因にして若しも此宿痾を根柢より〓〓するを得ば假
令ひ〓に格別の功勞なしとするも國民は敢て同情を惜まざる可し次に新政府に向て望を屬
す可き所のものは財政の始末なり明治政府が常に不如意を感ぜし所のものは即ち豫算問題
にして一方に於ては經費の增加を要するにも拘はらず他の一方に於て衆議院は當局者の不
信任を云々して支出に同意せず年々紛議を重ねたるは世人の知る所なり小吏の給料は土方
人足の手間賃にも及ばずして實際飢渇に瀕するものあるも增すこと能はず地方廳の經〓〓
甚だ乏しくして〓〓〓差支〓〓〓〓濟するを得ず交通機關の改良、敎育の擴張は急を告ぐ
るも應急の計を立つるに由なし内閣更迭の頻繁なりしも議會解散の〓〓きしも畢竟するに
財政不〓〓〓〓めにして〓〓の政變も其近因は即ち增税の困難に在りと云ふ可し左れば何
は兎もあれ〓つ增税を斷じて增す可し經費を〓〓〓〓〓〓き事業を〓〓〓〓〓滯せし事務
を〓〓〓〓こと恰も〓〓〓〓があるが如くせざ〓〓らず〓〓〓に於て〓〓切〓〓張りを〓
〓〓〓〓〓〓〓き他の〓〓に〓〓は國庫の収入を增して必要なる經費を得ば自から成績の
見る可きものある可し或は增税は苦もなく衆議院を通過す可きも貴族院は如何あらんかと
の説もなきに非ざれども元來國費は國民全體の負擔する所にして其增減に付ては特に國民
を代表する衆議院の議を重ぜざる可らず左ればこそ貴衆兩院は何れの點に於ても其權理に
輕重なきに拘はらず獨り豫算に關しては衆議院に先議權ある次第なれば他の問題は兎も角
も增税に付ては假令ひ貴族院に民黨政府を喜ばさるもの少なからざるにもせよ漫に反對す
るが如きことなかる可し況んや此問題は其方法に付てこそ多少の議論もあれ全體に於ては
何人も異議なき所なるに於てをや何れの點より見るも貴族院が之に異議を容るゝの理由あ
る可らず要するに民黨政府の特色は前政府の爲さんと欲して爲す能はざりし所のものを爲
すに在り即ち官臭の一掃、增税の實行にして首尾よく此二箇條の目的を達すれば他に觀る
可きものなしとするも以て面目を維持するに足る可し我輩の敢て注意を促す所なり