「新政党の組織に就て」
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時事新報に掲載された「新政党の組織に就て」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
新政党の組織に就て
聞く所に據れば前内閣派の人々は國民協會を根據として四方に遊説を試み以て政友を募る
可しと云ふ盖し一政黨をして永く政權を專有せしむれば必ず弊害を生ず藩閥政府をして今
少しく早く交替するの機會を得せしめたらんには政治は一層進歩したることならん交々執
政者の代はるは恰も時に風雨ありて腐れたる空氣を一掃し溜水を押流して天地を一新する
が如し果して然らば今後憲政黨に代はる可き政派の必要は明白にして憲政黨自身も恐らく
は又其誕生を望むことならん外患なければ内憂を生ず内未だ固まらざる憲政黨をして同心
一體たらしむるものは實に有力なる政敵の反對に存すればなり在野黨の組織は目下の要務
なれども其計畫を成功せしむるには自から考ふる所なかる可らず第一には國民協會を解散
すること肝要なりと云ふ次第は協會も多年の苦心、相應の同志者もあり根據も固からざる
には非ざれども其起源を察し其歴史を顧みれば天下の人心を収むるに不便の事情なきに非
ず藩閥は次第に人望を失ふて遂に倒れたり薩長の長老は政治上に於て殆んど死したりと云
ふも可なり然るに國民協會なるものは元と藩閥人の爪牙として作られ又實際藩閥人と進退
を共にしたるものなれば假令ひ今後藩閥の臭氣を脱するも協會の看板を掲げて政友を募る
は恰も狗頭を掛けて羊肉を賣るの情なきに非ず店の繁昌覺束なき其證據は例へば是迄とて
も協會員の盡力足らざるに非ず而かも黨勢次第に衰微して百人が五十人と爲り五十人が三
十人と爲りしを見ても明なる可し之を種として如何に天下を轉ばし廻はるも到底大なる金
米糖と爲る可きに非ざれば寧ろ斷然解散して新規に巻き直すこと肝要なる可し次には其基
礎を民意の上に求めざる可らず見込みもなき藩閥を再興せんとして古めかしき議論を主張
し政黨内閣は憲法に背くとか大權を削ぐなど唱ふるも耳を傾くるものはある可らず現に舊
警視總監の如き政黨内閣を不可なりとして現政府に反抗し又伊藤の擧動を非難したるよし
なれども試に此輩に向て然らば別に策あるかと問はゞ恐らくは返答に窮することならん或
は解散に繼ぐに解散を以てして尚ほ民黨輩の跋扈することあらば則ち憲法を中止せんのみ
と云はんか實に今日の時勢に於ては政黨内閣か憲法中止の外に道なきは明白なり然れども
憲法中止は果して行はる可きや否や今日に於て專政の舊に復せんとするは恰も炎天に氷を
結ばしめ水中に火を焚かんとするが如し到底功を奏す可らず古老頑愚の輩が之を唱ふるは
是非もなき次第なれども苟も天下に政友を求めて爲すあらんと欲するものは夢にも斯る妄
想を抱く可らず憲法は國民が多年の苦心に依て漸くに求め得たるものなれば今その中止を
可とせざる可らざるが如き政論を主張して國民の同情を買はんとするは白刃を振廻はし
つゝ人を招くに異ならず寄付く者なきは勿論なれば今日政黨を組織せんには一切斯る思想
を排し又斯る思想を抱く者を排して全く民意の上に土臺を置かざる可らず且つ又政黨を作
るには自から首領なかる可らず自由黨は板垣を本尊とし進歩黨は大隈を中心として其衆を
纏めたることなれば今後の政黨も亦同樣なりとして扨その人を何處に求めんかと云ふに天
下政客少なからずと雖も一方の大將として大隈と爭ふに足る者は伊藤の外にある可らず伊
藤大隈は實に政治界の兩大關と云ふも可なり然るに其伊藤は今や從來の假面を脱して政黨
内閣の端を開きたり伊藤を中心として政界に立たんと欲せば其根據を轉ずること又伊藤の
如くならざる可らず此點より見るも藩閥の遺跡を守るの不可なるを知る可し要するに政治
の基礎は既に定りて復た動す可らず今後の爭點は只政策の是非施政の巧拙にあるのみ斷然
藩閥臭味を脱し武斷主義を廢して廣く國民の間に同情を求めんこと我輩の呉々も勸告する
所なり