「冗員淘汰」
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時事新報に掲載された「冗員淘汰」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
冗員淘汰
民黨は明治政府の改革者として起りしものにして今日自から政權を握りたるに付ては改む
可きもの自から多きことならんが冗官淘汰の如きも其一として是非とも行はざる可らず甞
て野に在りしとき民黨は頻りに官吏俸給の減額、冗員淘汰を主張したり今日に於ては減俸
など思ひも寄らざる所にして下級の輩に對しては寧ろ增給こそ必要なれども官吏の員數に
至ては大に節減の餘地あるを信ずる其次第は元來役所の氣風は甚だ優長にして眞面目に仕
事するもの少なきは何人も認むる所なり上級の輩は一種の殿樣にして何事も自から辨ぜず
一通の書面を認むるにも下僚に命じて起草せしめ其草案を檢閲して更らに清書せしむるな
ど種々の手數を費すの例にして其下僚なるものも勉強したればとて譽めらるゝに非ず怠る
も叱らるゝことなし云はゞ惰け放題と云ふ有樣にして今日の仕事を明日に延ばし一時間の
用事に一日を費して事務が澁滯すれば乃ち人手不足を稱して別に幾多の雇員を置き以て仕
事を分つの例なり聞く所に據れば或省の如き官吏の總數は三百人内外にして給仕は三十餘
名小使は四十餘名ありと云ふ三百名に對して七十餘名の小使給仕とは隨分少なからぬ數に
して民間の銀行會社などには其例に乏しきことならん此一事を見ても役所の氣風は大抵察
するに難からざる可し繁文は冗員を生じ冗員は又繁文の弊を助長す役所の中には實に馬
鹿々々しき手續多しと云ふ例へば省内の參事官會議など催ほす塲合には給仕をして其旨を
當人に通ぜしむるか若しくは一通の廻状を認めて持廻はらしむれば用は十分辨ず可きに
態々これを蒟蒻版に印刷して銘々に配布するよし僅に目と鼻との間にある四五名の人を集
むるに召集状の印刷とは驚き入たる次第と云ふ可し又役人を採用するに當人の履歴性行は
甚だ明白にして更らに問ひ質すの必要なきも若しも當人が他の役所に奉職したる者ならん
には一應紹會するの規則にして其紹會文は掛の者これを起草して大臣次官の捺印を求め然
る後始めて發送の例なりと云ふ役所に無用の人、無用の事、多きを知る可し今若し是等の
〓事を一新して殿樣を平民にすると共に無益の手數を〓せんか官吏の數を半減するも恐ら
くは事務に差支へざることならん現に毎年暑中に至れば半ドンと稱して半日しか働かざる
のみならず各員暑中休暇を得るの例なれども〓〓〓〓〓の澁滯したるを聞かず或は暑中に
は事務も自から少な〓〓と〓〓〓〓れども二〓〓の〓〓く時間も〓〓〓〓〓半減して尚ほ
差支なき見れば以て冗員の多きを察するに足る可し冗員を淘汰したればとて固より何程の
儉約にも非ず無益の殺生に似たれども人を少なくして事務を簡にするは行政の要なり特に
今日の官吏は其俸給甚だ薄くして殆んど飢を凌ぐに足らず衣食足て禮讓を知ると云ふ若し
も此儘にして打過ぎんには或は官海の風紀を〓ることなしと云ふ可らず飢に瀕したる無用
の人を養はんよりは寧ろ頭數を減じて相當の給料を與へ以て活發に働かしむるに若かず冗
員淘汰斷じて行ふ可し我輩の敢て促す所なり