「異論あらば論ず可し」
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時事新報に掲載された「異論あらば論ず可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
異論あらば論ず可し
政府部内時に意見の衝突することあり世人をして或は其折合如何を氣遣はしむることなき
に非ざれども我輩は議論の多きを憂へずして却て其少なきを憂ふるものなり憲政黨は二個
の政黨の合併したるものにして大體の方針に於ては互に異存なしとするも時々の問題に至
ては自から所見の相違なきを得ず曾て布哇問題の起りしとき、時の政府が軍艦を派遣した
るは進歩黨の是認したる所にして自由黨は策の得たるものに非ずとして反對したり又自由
黨は所謂戰後の經營に賛成を表したるものにして進歩黨の中には之を過大なりとして其縮
小を望むもの少なからざりしのみか地租增徴に付ても進歩黨は斷乎として反對したるに拘
はらず自由黨は一時賛成の色を示したることなきに非ず事情斯くの如くなれば今日兩派が
合併したればとて俄に總ての問題に其一致を望む可らざるは勿論にして時に意見の相違を
免る可らず既に相違あれば双方調和の爲めにも寧ろ淡白に之を同僚の間に吐露して公然論
爭するに如かず論爭すれば利害得失自から明白と爲りて風雨一過此に晴天を見る可しと雖
も徒に之を内に藏むれば恰も奥齒に物の挾まりたるが如く互に不快の感を催ほして愈々交
情の圓滑を害す可し彼の青年書生の交際を見るに議論は毎度のことにして時としては掴合
はんとすることさへなきに非ざれども爲に交情を害せざるのみか却てますます親密と爲る
に反して婦人は兎角に淡白ならず心に思ふも口に發すること少なきが故に其交際の表面は
甚だ奇麗なれども内實は互の間に隔壁を存して深く親しむこと能はざるが如し今憲政黨内
進歩自由の關係を察するに其不淡白なること或は婦女子よりも甚だしく胸中思ふ所あるも
容易に之を打明けず世間の人に向ては颯々と公言しながら部内の仲間相對すれば素知らぬ
顏にていよいよの塲合に迫るまで打過ぎんとするの情なきに非ずと云ふ其次第は近く鐵道
問題に徴しても明なる可し鐵道の官有果して國家の利益と信ぜば颯々と之を同僚に告げて
共に其得失を講究す可き筈なるに世人に向ては斯く斯くの理由あり云々の事情あるが故に
是非とも此際斷行せざる可らずと明言しながら内に於ては曾て口を開かず恰も一家の兄弟
が家政に付て互に異見を抱き他人には話しながら内輪に打解けて相談せざるが如し友愛の
情、〓〓らんと欲するも得べからず或は之を制止黄の論議に附する〓〓相當の〓〓を〓て
ざる〓〓〓〓〓〓〓るに〓〓〓〓〓す可しと雖も本〓〓〓〓〓〓内に〓〓〓の〓内輪同士
にして〓〓の人は即ち他人なり他人に話して不可なき事は仲間に語て差支ある可らず又彼
の司法次官問題の如きも當人の擧動に果して不穩當の廉あらば斯くては政府の信用にも關
す可ければ速に處分す可しとて先づ内に發議す可き筈なるに實際は然らずして司法權濫用
憲法蹂躙など非難の聲を世間に傳へ其物議囂々たるに及んで始めて内の問題と爲したるが
如し一次官の進退に意外の波瀾を生じたるも偶然に非ず議論あらば遠慮なく論ず可し論じ
て敗すれば我を棄てゝ他の意見に從ふ可し是れぞ男子の事なれ斯くてこそ協同和合の實も
見る可きなれども内に陰然隔壁を築いて互に睨み合ひ外に新聞紙など利用して仄に相爭は
しむるが如き如何にも不體裁にして唯ますます惡感情の泉源たる可きのみ天下の男子たる
當局者の交際は其相接する磊々落々時として青年書生の無邪気なるが如くならんこと我輩
の望む所なり