「酒精並に外國酒の輸入」
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本文
酒精並に外國酒の輸入
酒税を增して歳入の增加を謀らんとならば外國酒並に酒精の輸入に相當の制限を加へて清
酒の販路を保護するは最も必要の處置にして若しも此邊の取締りを怠らんには增税は唯酒
造家を苦しむるのみにして結局税源を破壞するに至る可し或は近年外國酒の輸入增加は世
間一般に生活の程度上進してシエリー、シヤンパン、葡萄酒の如き高價の酒類を飮用する
が爲めに外ならずとすれば税源保護の點より見て深く憂ふるに足らざれども酒精の輸入增
加は全く内地に於て酒税增率の爲めに酒價の騰貴を促して混成酒の流行を招きたる結果に
して其增加と共に酒税の収入は充分の增額を期し難きを以て政府にしていよいよ酒税に依
て明年度の歳計不足を維持するの計畫ならんには之と同時に酒精並に外國酒類の輸入を制
限せざる可らず先づ外國輸入品を制限する第一の便法は關税の增率に在りと雖も明年一月
より實施の新關税則は此點に就て如何なる規定を設けたりやと云ふに葡萄酒シヤンパン以
外の外國酒並に酒精には關税定率法に從ひ二割五分乃至四割の從價税を課するの定めにし
て今後我國の都合如何に依りて如何なる高率にまでも之を增加するを得ると云ふ試に現行
の税率と關税定率とを比較すれば左の如し
現行税率 關税定率
割分
麥酒、黒麥酒 五分 二五
ボルト、シヤンパン
シエリー、葡萄酒 五分 三五
其他の釀造酒
酒精支那酒、ラム、
ブランデー、ウヰスキー 五分 四
其他の蒸溜酒
清酒(日本製類似) 五分 四
即ち税率は五倍乃至八倍の增加を見る次第にして殊に新税率は現行のものと異なり外國品
産出地の元價に内地に到着するまでの運賃保險料を始め一切の費用を加へたる價格を標準
として課するの定めなれば其實施後は多少輸入の勢を制限するの効ある可しと考ふる者も
あらんかなれども實際家の説に據れば假令ひ酒精の輸入税を八倍して四割を課するも昨今
世間に行はるゝが如き方法を以て清酒を混成するときは三十圓以内の費用にて一石の清酒
を製造するに難からずと云ふ果して然らば内國釀造の清酒に對して競爭の餘地あるは疑な
き所にして其結果は惡酒の流行を促して清酒の販路を狹くし酒税の収入を減少せしむる其
上に飮酒家の健康を害するに至るに過ぎざれば此邊の〓〓を防いで增税の目的を達せしめ
んには〓〓の輸入税率に就て〓〓上の制限なきを〓〓〓〓其引上げを〓〓し〓〓清酒製造
の道を〓〓可きのみ〓〓新關税則に於て葡萄酒シヤンペンの類は日佛條約の協定税則に從
ひ從價税一割以上に增す能はざれば若しも右の如く大に酒精の輸入税を增すときは外商の
内には目下市中に於て盛に販賣せらるゝ葡萄酒の製法の如く香料舎利別、苦味丁幾を混入
したる水に少量の酒精と染料とを交ぜ葡萄酒と稱して一割の低税にて酒精の輸入を謀る者
もある可けれども斯る塲合には條約に掲げたる葡萄酒を最も狹く解釈し粗惡の葡萄酒は總
て酒精として高率の税を課す可し収税の目的より云へば最も必要の處置にして條約の精神
より見るも之が爲めに外國の故障を招くなどの掛念ある可らず此外支那朝鮮より輸入する
内國産類似の清酒には内地の造石税と同額の輸入税を課して内外清酒の負擔を同樣ならし
め又税關の規則を厲行して酒精の密輸入を妨ぐなど税源保護の爲めに欠く可らざる處置に
して斯る保護を施したる以上は消費力の許す限り酒税を增加して充分の効を収むるに難か
らざる可し我輩の敢て注意する以所なり