「對韓方針」
このテキストについて
時事新報に掲載された「對韓方針」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
時事新報明治33年1月3日掲載の社説「對韓方針」を公開しています。掲載約1 年8ヶ月前に発表された続全集掲載社説「對韓の方針」(18980428)と「對韓の 方略」(18980429)と関係があります。
なお、「これらの社説は石河執筆で間違いないですが、それとは別の見解を述 べた「朝鮮独立の根本を養う可し」(18980504・全集未収録)があります。 こちらは福沢が書いたと推定できる社説です」というメールが平山氏から寄せられています。
本文
我國の對韓方針は其獨立を保障すると共に正常の範圍内に於て我權利々益の維持發達を謀るに在り我輩の辯明を待つまでもなく何人も認むる所ならんなれども只爰に記憶す可きは朝鮮に於ける權利々益は我國の專有に非ずして他の列國にても同樣の關係あることなれば我權益を全うするに勉むる中にも苟にも他を妨げざるの一事なり從來朝鮮に對して密接の關係を有したるは日清兩國にして樣々の成行の末、天津條約の締結を見たる次第なるに支那政府に於ては眼中恰も我國の權益を認めずして朝鮮の獨立を危うせんとするの擧動ありしにぞ遂に二十七八年の戰爭に及びたることなり今日は形勢一變、列國中にて最も朝鮮の利害を感ずるものは我國を除けば第一に露國を推さゞるを得ず而して朝鮮の獨立及び其國内に於ける日本の權利々益は露國の政府の明に認むる所にして即ち兩國間に數回の協商を重ねて條約を確定したる所以にこそあれば日本人が正當の範圍内に於て權益の維持發達を謀るに就ては何人も異議を挾むものある可らずと雖も之と同時に我國に於ても他の利益を妨げざるの心得なかる可らず列國の對外策を見れば孰れも此方針にして例へば歐洲諸國の支那に對する擧動の如き一國が鐵道敷設權又は借地權を得んとするときは他國に於ては决して之を妨げず別に同樣の權利を他方に求むるの常にして思ふに列國對峙の間に於て他を妨げて獨り自から益せんとするが如き徒に敵意を買ふのみならず到底行はる可らざる所以なるが故に一方に他の利益を妨げざる代はりに他方にては自から同樣の利益を収むるの手段に出づるのみ今朝鮮に於ける我國の利害は甚だ〓にして内地に居留する日本人は凡そ二萬人に達し隨て商工業の企業に投入したる資本額も容易のものに非ず其事實は外國人も認むる所にして苟も他の妨碍を許す可らず國民の覺悟す可き所なれども之が爲めには敢て他を妨ぐるの必要を見ず即ち他國の利益は毫も之を妨げずしてますます我利益を擴張するこそ對韓略の得たるものなる可し從來我國の對韓方針は時局の變化又は當局者の更迭に依り幾〓遷を經たれども我輩の所見を以てすれば正〓の範圍内に於て我權益を維持擴張するの一點に就ては常に〓〓〓〓し得ず〓ち〓〓々交〓の失策等の爲めに形勢少しく不可なるとき〓〓〓〓〓して從來占め得たる權益までも〓〓〓〓〓する其反〓に時としては確乎たる〓〓〓〓〓に〓に〓〓〓〓〓〓〓〓〓を〓〓〓〓〓〓〓〓〓すが如き〓〓〓〓恰も一時の〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓の〓〓方針として〓む可きものなきが如し支那を相手の對韓略ならんには右にても差支なかりしならんなれども今や然らず朝鮮に於いて關係を共にするものは歐洲の大國にして我一擧一動は世界の政治上にも影響することなれば一時の出來心に任せて事を行ふときは徒に他の侮を招くか然らざれば其感情を損するのみにして進退共に非常の不利を來さゞるを得ず頃日政府の對韓略一變したりとの説を傳ふるものあり我輩は政府の方針を知らず亦隨て如何に變じたるやを知らずと雖も實際に權益の實を収むるの點に注意せずして漫に氣焔を張るの愚なるは云ふまでもなしとして我國の對韓方針は他なし朝鮮に於ける日本の權益を護るは即ち世界に對する日本の地位面目を護る所以なれば最後の决心は如何なる塲合に際するも一歩の退く可らずと定めながら毫も他の利益を妨げずして正當の範圍内に於て正當の事を行ふに在るのみ政府の當局者並に一般國民は漫に目前の小事に喜憂することを止め此决心を以て對韓略の方針を固取す可し我輩の敢て希望する所なり