「排列」と「配列」の意味は異なるのか

last updated: 2011-01-31

はじめに

このページでは、「排列」と「配列」の意味が異なるのか否かを検討する。 以下では、「排列」と「配列」の違いに関する解説記事、そして国語辞典と漢和辞典の「排列」と「配列」の定義を分析する。 最後にまとめを述べる。

解説記事から見る「排列」と「配列」の違い

まず、「排列」と「配列」の違いを解説した記事を見ていこう。

『言葉に関する問答集 3』文化庁 「ことば」シリーズ7 (1977) 9--10頁は「排列」と「配列」の表記を説明する古典的な文献である。 この文献によると、明治時代の辞書においては「排列」と「配列」では意味が異なるとは全く書いていなかった。 その後に出版された『大日本国語辞典』では、「排列」と「配列」に異なる定義があてられていた。 また、昭和36年3月の国語審議会の部会報告が「排列」と「配列」の使い方につき何かしらの影響をもたらしたようだ。 昭和36年3月の国語審議会の部会報告については、第5期国語審議会漢字表記の「ゆれ」について(報告)2にて、読むことができる。 そこでは、「字画が少ない,あるいはなるべくなら教育漢字であることが一つのよりどころとなりうる例」として「配列」と「排列」が提示されている。 字画が少ない漢字または教育漢字を使用することが望ましいらしい。

柴田正美編著『和書目録法入門』1995.3 日本図書館協会(図書館員選書・8) (1995) 224--225頁は、広辞苑と漢和辞典での定義付けに差異があると指摘している。 ただ、国語辞典については広辞苑の名を示す一方で、当該漢和辞典については辞典名を提示していない。

岩猿敏生「目録の『排列』と『配列』」図書館界2001年3月号 (2001) 316--317頁は前者の記述を使用すべきと主張する。 それはこういうことである。 「細かい字義はとも角として、『排』でも『配』でもよさそうであるが」(317頁)、 目録について図書館の用語として使用されるべきなのは「排列」と「配列」のどちらかであろうか。 それは、文部省の学術用語集の『図書館情報学編』に従うと、前者ということになる。 この文献は、図書の目録の作成法という限定的なテーマを取り上げるのみである。

上記の文献からは、「排列」という表記が、教育政策上の考慮により、「配列」へと書き換えられたということが分かる。

国語辞典から見る「排列」と「配列」の違い

次に、国語辞典に掲載されている「はいれつ」の定義を考察してみよう。 以下に掲載するのは、国語辞典に掲載されている「はいれつ」の定義を整理して比較対照した表である。

代表的な国語辞典に掲載されている「排列」と「配列」の定義を比較し整理した図

これらの表から分かることは何だろうか。 まず、国語辞典には、排列と配列の違いについて触れたものが全く無いということに気づく。 定義の内容に注意を払えば、順序を問題としない辞書が見受けられる。 また、順序よく並べるというよりも順序を決めて並べるという定義を採用している辞書が多いとも言えるだろう。

漢和辞典から見る「排列」と「配列」の違い

最後に、漢和辞典の定義づけを参照しよう。

『大漢和辭典 修訂第二版』には「配列」の語句が一切記載されていない。 他方、「排列」の語句は「順序よくならべつらねる」と規定されている(5巻277頁)。

『現代漢語例解辞典 第二版』(小学館、2000)では、「配列」が「ならべる。とりあわせる」という小見出しのもとに掲載されている。 具体的には、配色、配合などとともに列挙されている。 「配列」が「くばる」「わりあてる」という小見出しのもとには掲載されていないのだ。

さまざまな漢和辞典の記述を眺めていて気づいたことが二つある。

第一点は、大修館書店の漢和辞典に掲載されている定義づけである。 『大漢語林』、『新版漢語林』、『新漢和辞典』、そして『大修館漢語新辞典』といった大修館書店の漢和辞典では、「排列」と「配列」に異なる定義付けをしている。 これより、並べるということと並べ連ねることを厳密に使い分けようとする様を読み取ることができる。 大修館書店の漢和辞典のうち整然とした解釈を展開しているのは、『現代漢和辞典』(1996)である。 コラムで「排」と「配」は異なる並べ方を意味していると説明している。 それによれば、線的に並べるのが「排」であり、平面的または立体的に並べるのが「配」なのだ。

第二点は、表記のゆれである。 「ならべる」と「並べる」や「順序だてて」と「順序立てて」といった表記が、同一の辞書の「排列」と「配列」の定義づけに使用されている。 漢字で書いた場合とひらがなでかいた場合を区別しようとしているのだろうか。 もっとも、校正をした人がそこまで目を向けなかった結果にすぎないかもしれない。 また、辞書の定義が何かの引き写しであり、その元の記述が反映されているものなのかもしれない。

私には、第一点目の解釈の理由付けがよく分からない。 「排」と「配」が異なる並べ方を意味しているというのは、歴史的に実証されていることなのだろうか。 もしも歴史的に実証されているとすると、これまでの日本の国語辞典や辞書がそのような意味合いを示してこなかったのは何故なのか。 すでに触れた『言葉に関する問答集 3』文化庁 「ことば」シリーズ7 (1977) 9--10頁の記事内容との不一致をどう考えるべきか。 これらの疑問が解決されない限り、第一点目の解釈の理由付けに同調し得ないだろう。

おわりに

このページでは、「排列」と「配列」の意味が異なる、とは説得的に主張し難いことを主張した。 主張するにあたり、「排列」と「配列」という表記の違いがどのように説かれてきたか、そして現在はそれがどのように説明されているのかをまとめた。 ただ、万一、大修館書店の漢和辞典に掲載されている「排」と「配」の定義づけが説得的な根拠を有しているならば、 結果として「排列」と「配列」の意味が異なることになる、と言いうるかもしれない。

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