『帝国憲法論』 その5

last updated: 2013-01-23

第二編 各論

第三章 摂政

摂政は天皇に代て其事を摂行するものを謂う。 而して之を置くべき場合、并に摂政たるべき人は、皇室典範の定むる所なり。 憲法義解に曰く、「或る国に於て両院を召集し両院合会して摂政を設くるの必要を議決することを憲法に掲ぐる如きは皇室の大事を以て民議の多数に委て皇統の尊厳を冒涜するの端を啓くものに近し」と。 蓋し皇室典範は皇室の家法に過ぎざれば、法律と典範と矛盾する場合には、典範は其効力を失うべしと雖も、摂政の事は憲法を以て皇室典範之を定むと規定する以上は法律は其間に立入ることを得ざるべし。 而して摂政なるものは君主に代て統治するも、自ら統治者と為るにあらず。 即ち天皇に代て統治権を行うものなりと雖も唯に統治権行使の代理者たるに止まり、統治権の本体を左右することを得ざるや明かなり、去れば憲法第七十五条に、憲法及び皇室典範は摂政を置くの間之を変更することを得ずと規定せり。 皇室典範に依り摂政を置く場合は、天皇未だ成年即ち満十八才に達せざるとき、又は久しきに亘るの故障に依り、大政を自らする能わざるときとの二ヶの場合なりとす。 而して摂政たるべき人は、

(一)
成年に達したる皇太子又は皇太孫
(二)
皇太子又は皇太孫あらざるとき、又は成年に達せざるときは、親王及王、皇后、皇太后等

の順序に依るべきものなり。