『比較国会論』 その6

last updated: 2013-01-23

第三章 国会の組織

第二節 下院の組織

第一項 英国庶民院の組織

英国庶民院は一定の資格を有する人民の直接投票を以て選挙する議員を以て成立す、 議員の年限は七ヶ年なり、其初め千二百九十五年模範国会の当時に於ては議員の数は二百七十四人なりしが、エリザベス時代(千五百五十八年―千六百〇三年)に於ては四百六十六人と為り、蘇格蘭の合併前には五百十三人為りしが、 千七百〇七年合併の結果蘇格蘭選出議員四十五人を加えて五百五十八人と為り、 千八百〇一年の愛蘭土との合併に依て更に百人を増加して六百五十八人と為り、 最後に千八百八十五年の議員分配条例に依て六百七十八人と為るに至れり。

選挙方法、 英国の選挙法は千二百九十五年エドワルド一世が始めて模範国会を招集せし以来幾多の変遷を受けて漸く千八百八十五年に至り現行の選挙法と為れり、 今其変遷の歴史を述ぶるは本書の目的にあらざるのみならず殆んど其必要なきが故に、現行法に就て之を略述せんに、現行法に依れば英国の選挙区は大体三種に分る、

  • 一、カウンテー
  • 二、ボロー
  • 三、大学区

而して現行法は従来の地方代表主義を一変して人口主義を採用し、人口凡そ平均五万四千人に対して一人の議員を選出するの方法を採ることとなせしも、 之を実際に適用するに至ては種々の斟酌を施し、人口一万五千以下の市は之を県の中に編入し、一万五千以上五万以下の市は一人の議員を選出し、五万以上十六万五千以下の市は一人を選出し、其上五万を加うる毎に一人を増加することと為せり、 而して県の選出議員も此標準に依て其数を定む、 唯此例外に属するものは大学区にして、大学選挙区は人口と何等の関係を有せず、指定せられたる大学は選挙人の多少に拘わらず一定の議員を選出することを得べし、大学をして議員を選出せしむるはヂェームス一世の時代(千六百年―千六百二十五年)に始り、当時四人の議員なりしも漸次増加して九人と為れり、大学議員は大学卒業生に依て選挙せらる、此選挙に特別なる方法は選挙者は代理人に委託し又は投票用紙を送附して選挙することを得るにあり、大学議員にして有名なりし者少からず、 現今議員を選出し得べき大学及び議員の数は左の如し、

一、オクスフォールド大学二人
一、ケンブリッヂ大学二人
一、ロンドン大学一人
一、ダブリン大学二人
一、エディンバーグ大学及びセント、アンドリュース大学の連合選挙区一人
一、グラスゴー大学及びアバーデン大学の連合選挙区一人
合計九人

英国は大選挙区制を採らずして小選挙区制即ち一区一人制を採れるが故に、二人の議員を選出する県及び市は之を二区に分ち、 三人を選出するものは之を三区に分ち、其他之に従て一県又は一市内を数区に分つ、 唯此例外に属するものは第一に前掲せる二人の議員を選出する三大学選挙区、第二に千八百八十五年以前に於て二人の議員を選出し、尚お現に五万以上十六万五千以下の人口を有する市なりとす、 現今各県及び各市に於ける選出議員の数を見るときは、県に於ては一人より二十六人に至り、市に於ては一人より六十一人に至る、而して之を総合するときは左の如し。

英蘭土県選出議員二百五十三人
市選出議員二百三十七人
大学選出議員五人
愛蘭土県選出議員八十五人
市選出議員十六人
大学選出議員二人
蘇格蘭県選出議員三十九人
市選出議員三十一人
大学選出議員二人
合計六百七十人

被選資格、 庶民院議員に選挙せらるるには左の件を具備せざるべからず、

  • 一、男子たること、
  • 二、満二十一歳に達したること、
  • 三、英国臣民なること

次の掲ぐる者は被選資格を有せず、

  • 一、貴族、蘇格蘭の貴族は絶対に庶民院議員たることを得ざれども愛蘭土の貴族は現に貴族院議員たる者の外は大英国の何れの部分に於ても県若くは市の選出議員たることを得べし、
  • 二、僧侶、英蘭土若くは蘇格蘭の国立教会又は羅馬旧教会に於て教職を奉ずる者、
  • 三、或る官吏、司法官、選挙事務に関係する官吏、歳入の徴集を司る官吏、会計検査官及び公共の目的に充つる財産を管理する官吏等、其他議員にして政務官と為るときは一度議員の職を辞し再選せらるることを要す、是れ女王アンの時に定めたる法律の規定にして今日に於ては不必要なるのみならず頗る不便なれども尚お効力を有す、
  • 四、恩給受領者、王室より恩給金を受くる者は議員たることを得ず、然れども文官恩給及び外交恩給を受くる者は此限りにあらず、
  • 五、精神錯乱者、
  • 六、政府の請負事業を為す者、
  • 七、或る犯罪者、叛逆罪の宣告を受けたる者、又は国会議員選挙等の際に犯したる不法行為の為めに刑の宣告を受けたる者、
  • 八、破産者、

選挙資格、 庶民院議員を選挙するには左の条件を具備せざるべからず、

  • 一、男子なること、
  • 二、満二十一歳に達したること、
  • 三、英国臣民なること、
  • 四、財産上の要件を充たすこと、

右の条件中尤も解し難きものは財産上の要件にして、此要件は古来幾多の変遷を経て漸く千八百八十四年の人民代表法に依て稍々整頓するに至りたれども、 之れとても頗る錯雑を極め何人と雖ども明確に之を表示するに苦まざるものなし、 之れ歴史上の産物にして今俄に之を破壊して条理整然たる規定を設くる能わざる事情あるが故なり、 余は成るべく解し易き方法を以て左に之を列挙説明せん、

甲、英蘭土に於ける財産上の要件、

  • 一、毎年四十志以上の純価格ある自由所有地フリーホールドを有する者、但し此財産は相続、専有、婚姻、契約、遺言、教職又は官職に依り取得したるものならざるべからず、
  • 二、毎年五磅以上の純価格ある自由所有地を有する者、前項に掲げたる以外の原因に依て財産を取得したる場合は本項の適用を受けざるべからず、
  • 三、毎年五磅以上の純価格ある登記所有地コピーホールド又は自由土地以外の土地所有者、
  • 四、左の借地権を有する者、
    • (イ)借地期限六十年以上なるときは毎年五磅以上の純価格あること、
    • (ロ)借地期限二十年以上なるときは毎年五倍(注1)以上の純価格あること、下借地人は其土地を占有する間は元借地人と同一の選挙権を有す、

乙、蘇格蘭に於ける財産上の要件、

  • 一、毎年五磅以上の価格ある土地又は相続財産の所有者、
  • 二、左の借地権を有する者、
    • (イ)一代借地権又は五十七年以上の借地権なるときは毎年十磅以上の純価格あること、
    • (ロ)十九年以上の借地権なるときは毎年五十磅以上の純価格あること、

丙、愛蘭土に於ける財産上の要件、

  • 一、毎年五磅以上の純価格ある自由所有地を有する者、
  • 二、左の借地権を有する者、
    • (イ)一代借地権なるときは毎年二十磅以上の純価格あること、
    • (ロ)六十年以上の借地権なるときは毎年十磅以上の価格あること、
    • (ハ)十四年以上の借地権なるときは毎年二十磅以上の価格あること、
    • (ニ)毎年二十磅以上の純価格ある牧師領レクトリー副牧師領ヴィカレージ若くは礼拝堂チャペルリー所有地の借地人にして終身十分の一税を支払う者

以上列挙した不動産上の権利を有せずと雖ども、毎年十磅以上の価格ある土地又は家屋を占有する者にして左の条件を充たしたるときは選挙権を有す。

第一は占有期間の制限にして即ち占有者は選挙人名簿に登記せらるる前十二ヶ月の間其県若くは市内に於て此等の財産を占有せることを要す。

第二は住居の制限にして占有者は英蘭土に於ては登記前六ヶ月間蘇格蘭に於ては登記前一ヶ年間其登記を受くる市内又は市より七哩以内の地に住居せざるべからず、 茲に注意すべきは住居の制限は以上二箇の場合のみに限り、其他英蘭土及び蘇格蘭の県并に愛蘭土の県及び州に於ては何等の制限を設けざる事是れなり。

第三は納税に関する制限にして占有者は占有財産に課せられたる救貧税プーアレート其他の租税を一定の期間内に支払わざるべからず、 即ち英蘭土の県に於ける占有者は其年の一月五日迄の救貧税を同年七月二十日迄に支払うことを要し、 市に於ける占有者は啻に救貧税のみならず総ての租税を其日時迄に納めざるべからず、 蘇格蘭の県に於ける占有者は其年の五月十五日迄の救貧税を同年七月二十日迄に治め、市に於ける占有者は総ての租税を七月二十日迄に支払うことを要す、又愛蘭土の県及び市に於ける占有者は一月一日迄の救貧税及び其他の租税を七月一日迄に納むることを要す。

寄宿人、 毎年十磅の純価格ある無造作なる家屋に寄宿する者にして選挙前十二ヶ月中の或期日前に於て十二ヶ月間同一の家屋に在りたる場合は選挙権を有す。

左に掲ぐる者は財産上の資格を要せず。

  • 一、或る市公民、千八百三十二年以前に於て市の住民を公民フィーマンと為して選挙権を与えたることあり、此等の市に住する者は現今に於ては出生又は服役に依て公民の資格を得且つ選挙人登記前十二ヶ月間其都府より七哩以内に住居するときは選挙権を有す。
  • 二、倫敦市の市組合シテーコンパニー中の何れが其一に属する組合員リバリーマン
  • 三、或る大学の卒業生前に記載せるは八箇の大学卒業生は財産上の制限を受けず

左に掲ぐる者は選挙権を有せず、

  • 一、貴族、但し愛蘭土貴族にして現に庶民院議員たる者は此限りにあらず、
  • 二、或る種類の官吏、警察官及び選挙に関する職務を掌る官吏の如し、
  • 三、精神錯乱者
  • 四、或る種類の犯罪者、叛逆罪又は重罪の判決を受けたる者は其刑期満了するか若くは特赦を受くる迄選挙権を行うことを得ず、又選挙に関する不法行為の為めに刑の宣告を受けたる者は七ヶ年間選挙資格を失う、
  • 五、救助を受けたる者、選挙期日前の七月三十一日に先立つ十二ヶ月間に於て救助を受けたる者は其時の選挙に係ることを得ず、

英国の議員選挙人に特別なるは選挙人にして教区に於て前述せる如く財産上の資格を有するときは各区に於て投票を為し得るに在り、 而して英国の議員選挙は全国を通じて一定の期日に行わるるものにあらざるが故に一人にして数ヶの投票を為すことは決して珍しからず、 之れ政治社会に於て頗る議論あることにしてグラッドストンの如きは自由党綱領の一として一人一票の主義を掲げたることありしも之を貫徹する能わずして此習慣は今日尚お効力を有せり、

議員の除名、 庶民院は議員を除名するの権利を有す、如何なる場合に於て除名することを得べきやに付ては確たる定則あるにあらざれども議員にして議院の信用を傷くるが如き行為あるときは之を除名することを得べし従来の例に依れば貨幣又は証書の偽造、偽証、公金の消費収賄に関する犯罪、議院を侮辱する行為、紳士の体面を汚す行為等は明かに除名の原因と為るものなり。

議院の辞職、 庶民院議員は辞職することを得ず、然れども習慣上或る方法に依て辞職と同一の結果を得べし、 これは(注2)議員の職と両立せざる或る官職に就くことにして此官職は単に名義上に止まるが故に従来の習慣上辞職せんとする議員の要求に応じて何時にても与えらるるものなり、 之れ実に間接の辞職方法にして寧ろ直接の辞職を許すに如かざれ(注3)ども、 英国民の保守的性質は此の如き習慣すらも之を廃することを好まざるなり。

第二項 北米合衆国代議院の組織

合衆国代議院は一定の資格を有する人民の直接投票に依りて選出したる議員を以て組織す、 議員の年限は二ヶ年なり、千七百八十九年の第一期議会に於ては議員の数は僅かに六十五人なりしが、爾来百二十余年の間に於て十三州は増加して四十五州と為り、四百万の人口は増加して八千万と為り、議員の数も漸次に増加して現在三百八十六人と為るに至れり。

被選資格、 代議院議員に選挙せらるるには左の条件を具備せざるべからず、

  • 一、年齢満二十五歳に達したること、
  • 二、七ヶ年間合衆国の住民たること、
  • 三、現に選出せらるべき州の住民なること、

男子たることの要件は憲法及び法律に明文なしと雖ども事実上に於て争うべからざる要件と為れり、又左に掲ぐる者は被選資格を有せず、

  • 一、合衆国の官職に在る者、
  • 二、公権を剥奪せられたる者、即ち一たび国会議員又は合衆国官吏として、又は州立法部議員若くは州の官吏として、合衆国憲法を擁護するの宣誓を為したるに拘わらず、国家に対する叛乱に与し、又は敵を幇助したる者、但し議院は定員三分の二の投票を以て此制限を除去することを得べし。

選挙資格、 合衆国の憲法は議員の選挙資格に関して詳細なる規定を設けず、之を各州立法部の定むる所に放任せり、故に各州立法部は其州より選出する議員の選挙資格に関して如何なる制限をも設くることを得べし、唯憲法は左の二箇の制限を規定するが故に此規定に抵触する各州の立法は無効たるべし、

一、選挙人は其州の立法部に於て尤も多数の議員を包含する団体の議員を選挙する資格を備えざるべからず、 現今各州の立法部は合衆国の立法部と均しく元老院と代議院とに依て成立するが故に、 例えば其州の元老院は三十人の議員を有し代議院は五十人の議員を有するときは、代議院議員を選挙する資格を有する者にあらざれば合衆国の選挙人と為ることを得ず、 然れども各州代議院議員の選挙資格を定むるは其州立法部の為す所なるが故に、 各州は此手段に依て其州内に於ける合衆国選挙人の資格を変更することを得べし。

二、人種及び体色の異なること又は以前に奴隷の状態に在りしとの理由を以て選挙資格を奪うことを得ず、 是れ千八百七十年の憲法修正第十五条の規定にして万民平等主義より来りたるものなり、 此効果として米国到る処に散在する黒人の如きも選挙資格を有する点に於ては白人と毫も異なることなし。

此の如く合衆国憲法は以上述べたる二ヶの制限の範囲内に於て選挙資格を定むることを各州の立法部に一任するが故に、詳細に選挙資格を知らんと欲せば之れに関する四十五州の法律を逐一吟味せざるべからず、 然れども此の如きは殆んど無用の業なるが故に之を省き左の三ヶの事項は各州に共通なることを断言せん。

  • 一、丁年以上の男子なること、
  • 二、財産上の制限を附せざること、
  • 三、或る種類の犯罪者を取除くこと、

女子の選挙権に附て一言せざるべからず、現今合衆国四十五州の中女子に選挙権を与うる者四州あり曰く、コロラド、曰くアイダホ、曰くウター、曰くヨーミング是なり、 此内ヨーミング州は千八百七十年の法律を以て規定し、コロラド州は千八百九十三年の法律を以て規定し、其他の二州は憲法に於て之を規定す、 又千九百二年マッサチューセッツ及びアイオワの立法部に於て女子選挙権法案が現れたるも何れも否決せられたり。

選挙方法、 合衆国は人口主義を採用し人口を標準として議員の数を定む、而して人口の調査は十年毎に之を行うものなるが故に議員の配当も十年毎に之を変更せざるべからず、最近千九百二年の配当条例は人口凡そ十九万に対し一人の割合を以て之を各州に配当せり現今尤も多数の議員を選出する者はニューヨーク州の三十七人にしてペンシルバニヤ州の三十五人之に次ぎ僅かに一人を選出するもの五州あり、而して憲法は選挙の日時、場所及び方法を定むることを各州に一任するが故に 各州は其配当せられたる議員を如何なる方法を以て選出するかを自由に定むることを得べし(注4)、 現今各州に行わるるは概して一区一人の小選挙区制にして各州は配当せられたる議員の数に関して其州を分ちて数ヶの選挙区と為す、 然れども配当条例の改正に依て新に一人若くは数人の議員を増加したる場合に於ては之れを配当するが為めに従来の選挙区を全く変更せざるべからざる故に、 之を避けんが為めに一時の便宜法を設けて全州の選挙人をして速記投票を以て増加議員を選挙せしむることあり、 近来メイン州は此方法を行えり、 又カンザス州の如きは、三名を小選挙区に分ち四名を全州投票を以て選挙せしことあり、然れども此等は何れも稀に見るべき異例にして最大多数は小選挙区制を採用せることは事実上争うべからず。

第三項 独逸代議院の組織

独逸代議院は一定の資格を有する人民の直接投票に依て選出したる議員を以て組織す、 議員の年限は三年にして現在議員の数は三百九十七人なり。

被選資格、 独逸憲法は代議院議員の被選資格を規定せずして之を選挙法に譲り、唯二ヶの消極的制限を設く。

  • 一、代議院議員は同時に参議院議員たることを得ず、
  • 二、代議院議員にして帝国又は各州の有給官吏に任ぜられたるときは議員の地位を失わざるべからず、但し官吏に任ぜられたる後に於て再選せらるるときは此限にあらず、而して此制限は仮令官吏にあらざるも帝国又は各州の公務に服して高等なる地位を有し又は俸給を受くる者にも適用せらるべし。

現行選挙法に依れば代議院議員に選挙せらるうるには左の条件を具備せらるべからず。

  • 一、男子なること、
  • 二、選挙期日前満一年間帝国臣民の分限を有すこと、
  • 三、年齢満二十五歳に達したること、

左に掲ぐる者は被選資格を有せず。

  • 一、後見を受くる者、
  • 二、破産若くは家資分散の状態に在る者、
  • 三、選挙前一ヶ年内に貧民救助を受けたる者、
  • 四、犯罪の為め公権又は参政権を剥奪せられたる者、

選挙資格、 憲法は代議院議員は普通選挙の方法を以て選出せらるべきことを規定するが故に選挙資格に財産上の制限を附することを得ず、 現行選挙法に依れば選挙人は左の条件を具備せざるべからず。

  • 一、男子なること、
  • 二、帝国臣民なること、
  • 三、帝国内に住居すること、
  • 四、年齢満二十五歳に達したること、

左の掲ぐる者は選挙資格を有せず。

  • 一、現役に服する陸海軍人、
  • 二、後見を受くる者、
  • 三、破産若くは家資分散の状態に在る者、
  • 四、選挙前一ヶ年内に貧民救助を受けたる者、
  • 五、犯罪の為め公権又は参政権を剥奪せられたる者、

選挙方法、 現行選挙法は人口主義を採用し人口十万毎に一人の議員を選出するの標準を以て定めたれども人口増加の為めに今日に於ては非常に不平均を生ずるに至れり、 例えば伯林の如きは人口百五十万以上を有すれども尚お僅に六人の議員を選出せり、 而して人口主義は次の如き制限を受く、 第一、選挙区の境界は州の境界を超越すべからず、 第二、何れの州も人口十万に対して一人の議員を選出し尚お残余の人口五万以上に出ずるときには更に一人を増加す、 第三、人口十万に満たざる州も尚お一人を選出す。 選挙法は一区一人の小選挙区制を採用し、憲法は選挙は匿名投票を以て之に為すべきことを規定せり、 各州の選出すべき議員は左の如し。

普魯西二百三十五人
バイエルン四十八人
ザクセン二十三人
ウユルテンブルク十七人
ヘッセン九人
バーデン十四人
メクレンブルグ、シュエーエン六人
ザクセンワイマール三人
オルデンブルグ三人
ブラウンシュワイヒ三人
ハンブルグ三人
ザクセンマイニンゲン二人
ザクセンコーブルグゴータ二人
アンハルト二人
アルサスローレン十五人
メクレンブルグストレリッツ一人
ザクセナルテンブルグ一人
シュワルツブルグ、ルードルスタット一人
シュワルツブルグ、ゾンデルスハウゼン一人
ワルデツク一人
兄統ロイス一人
弟統ロイス一人
シャウンブルグ、リッペー一人
リッペー一人
リュペック一人
ブレーメン一人

右に依て見れば普魯西は三分の二以上の議員を選出する故に独逸代議院は普魯西議員の為めに全く占領せらるるものと云うも過言にあらず。

第四項 仏蘭西代議院の組織

仏国代議院は一定の資格を有する人民の直接投票に依って選出せられたる議員を以て組織す、議員の年限は四ヶ年にして現在議員の数は五百八十四人なり。

被選資格、 仏国憲法は代議院議員の被選資格に付て何等の規定を設けずして之を選挙法に譲れり、 現行選挙法に依れば代議院議員に選挙せられたるるには左の条件を具備せざるべからず。

  • 一、男子なること、
  • 二、仏国臣民なること、
  • 三、年齢満二十五歳に達したること

左に掲ぐる者は被選資格を有せず。

  • 一、仏蘭西を統治したる家の家族、
  • 二、現役に服する陸海軍人、但し此には二三の例外あり
  • 三、有給官吏国庫より俸給を受くる官員は議員たる資格を有せず、但し次に掲ぐる者は此限にあらず、国務大臣、各省の次官、全権大使、特命全権大使、セーン県の知事、警視総監、大審院長、会計検査院長、巴里控訴院長、大審院検事長、会計検査院の検査官長、巴里控訴院検事長、大僧正、僧正等、
  • 四、選挙区内に管轄権を有する或る種類の官吏、選挙の当時又は選挙前六ヶ月内に於て選挙区内に管轄権を有する司法、行政、教育及び宗教の高等官職を奉し又は奉じたる者は其選挙区より選出せらるることを得ず、其官職の種類は選挙法に於て逐一之を列記すれども茲に之を掲ぐるの要を見ず、

選挙資格、 代議院議員の選挙人は左の資格を有せざるべからず。

  • 一、男子なること、
  • 二、仏蘭西臣民なること、
  • 三、年齢満二十一歳に達したること、
  • 四、選挙前六ヶ月間其投票を差出す市町村に住居したること、

左に掲ぐる者は選挙資格を有せず。

  • 一、公権又は参政権を剥奪せられたる者、
  • 二、特に選挙権の行使を禁止せられたる者、
  • 三、強窃盗、詐欺、賭博、背信、官金消費、浮浪、乞食の罪の宣告を受けたる者、
  • 四、後見に附せられたる者、
  • 五、破産の状態に在る者等、

選挙方法、 仏国代議院議員の選挙方法は屡々改正せられたり、千八百七十一年の法律に於ては一県を以て一選挙区と為し、 各選挙人は其県選出の総議員に向て投票す、 即ち大選挙区の速記投票方式を採用せしが、 千八百八十五年更に之を廃して旧制に復し、千八百八十九年再び之を廃して現今の小選挙区制を採用するに至れり、 現行法に依れば国の行政区画を大別しては八十九県と為し、各県を小別して郡と為し、 一郡に於ては必ず一人の議員を選出し、若し一郡の人口十万を越ゆるときは更に一人を増加す、 而して一郡に於て二人以上を選出する場合には其数に応じて郡中を小区に分つが故に一区に於て二人以上を選出する場合は決して起らざるなり、 其他本国以外の領地より選出する議員十三人あり選挙は匿名投票を以て之を為す。

第五項 日本衆議院の組織

日本衆議院は一定の資格を有する人民の直接投票を以て選挙したる議員を以て組織す、 議員年限は四ヶ年にして現在の議員数は三百八十二人なり。

被選資格、 衆議院議員に選挙せらるるには左の条件を具備せざるべからず、

  • 一、男子なること、
  • 二、日本臣民なること、
  • 三、年齢三十歳に達したること、

左に掲ぐる者は被選資格を有せず、

  • 一、禁治産者及準禁治産者
  • 二、身代限の処分を受け債務の弁済を終えざる者、及び家資分散若くは破産の宣告を受け其の確定したるときより復権の決定するに至る迄の者、
  • 三、剥奪公権及び停止公権者、
  • 四、禁錮以上の刑の宣告を受けたるときより其裁判確定するに至る迄の者、
  • 五、華族の戸主、
  • 六、現役中の陸海軍人及び現役中にあらざるも戦時若くは事変に際し召集中の者、
  • 七、官立、公立、私立学校の学生及び生徒、
  • 八、神官、神職、僧侶其他の諸宗教師、小学校教員及び此等の職を罷めたる後三ヶ月を経過せざる者、
  • 九、政府の為め請負を為す者又は政府の為め請負を為す法人の役員、
  • 十、選挙事務に関係ある官吏、官員及び之を罷めたる後三ヶ月を経過せざる者、但し此等の者は其選挙区外に於ては被選資格を有す、
  • 十一、宮内官、判事、検事、行政裁判所長官、行政裁判所評定官、会計検査官、収税官吏及び警察官吏、
  • 十二、府県会議員、此れは衆議院議員と相兼ぬることを得ざるに過ぎざるが故に当選したるときは前職を罷めて後職に就くことを得べし、

選挙資格、 衆議院議員の選挙人は左の条件を具備せざるべからず、

  • 一、男子なること、
  • 二、日本臣民なること、
  • 三、年齢満二十五歳以上に達したること、
  • 四、選挙人名簿調製の期日前満一年以上其選挙区内に住所を有し尚お引続き有する者、
  • 五、選挙人名簿調製の期日前満一年以上地租十円以上又は満二年以上地租以外の直接国税十円以上若くは地租と其他の直接国税とを通して十円以上を納め尚お引続き納むる者、家督相続に依り財産を取得したる者は其財産に附き被相続人の為したる納税を以て其者の納税したるものと看做す、

左に掲ぐる者は選挙資格を有せず、

  • 一、禁治産者及び準禁治産者
  • 二、身代限の処分を受け債務の弁済を終えざる者及び家資分散若くは破産の宣告を受け其確定したるときより復権の決定確定するに至る迄の者、
  • 三、剥奪公権者及び停止公権者、
  • 四、禁錮以上の刑の宣告を受けたるときより其裁判確定するに至る迄の者、
  • 五、華族の戸主、
  • 六、現役中の陸海軍人及び現役中にあらざるも戦時若くは事変に際し召集中の者、
  • 七、官立、公立、私立学校の学生及び生徒、

選挙方法、 明治三十三年改正の現行選挙法は従来の小選挙区制を廃して大選挙区制を採り、各府県中人口凡そ二万五千以上を有する市を独立選挙区と為して一人の議員を選出せしめ、 其以下の市をば郡部に編入し之を一括して一選挙区と為し、市部に於て人口凡そ十万人に対して一人の議員、郡部に於ては凡そ十五万人に対して一人の議員を配当せり、 此の如き選挙区の下に於て一選挙人は一候補者に向ての外投票することを得ざるを以て、日本の選挙方法は大選挙区の単記投票制なること明なり、 然れども市部に於ては単に一人を選出する四十八の独立市あり、 又佐渡は一人を選出し北海道は六人の議員を六区に分配せるが故に、此等のものは小選挙区制なりと云わざるべからず、 選挙は匿名投票を以て之を為す。

第六項 伊太利代議院の組織

伊太利代議院は一定の資格を有する人民の直接投票を以て選挙したる議員を以て組織することは各国の下院と同一なり、議員の年限は五ヶ年にして現在の議員数は五百八名なり。

被選資格、 代議院議員に選挙せらるるには左の条件を具備せざるべからず。

  • 一、男子なること、
  • 二、伊太利臣民なること、
  • 三、年齢満三十歳に達したること、
  • 四、公権を有すること、

其他現行選挙法に依れば現職を有する僧侶、選挙区の区長、地方評議会会員、官吏其他国庫より俸給を受くる者は議員と為ることを得ず、 但し官吏に関しては例外あり、 大臣及び次官は議員と為ることを得べく、其他の官吏は総員四十名を限度とし内裁判官及び大学教授は各々十名を超過することを得ず、 若し此定数以上当選したるときは抽籤を以て定数に減員す、 又政府より保護金を受くる会社の役員及び政府の工事請負人は議員と為ることを得ず。

選挙資格、 代議院議員選挙人は左の資格を具備せざるべからず、

  • 一、男子なること、
  • 二、伊太利国の臣民なること、
  • 三、年齢二十一歳に達したること、
  • 四、読書及び写字を為し得べきこと、

其他財産上に関して種々の制限あれども事詳細に亘るを以て之を省く、

選挙方法、 其初め小選挙区制を採用し各選挙区一名の議員を選出せし時に於ては代議士は広く国家問題を攻究せずして概ね個人的及び地方的利益の為めに心を注ぎ国民代表の主義を全うすること能わざりしを以て、 千八百十二年の条例を以て五百八名の議員を百三十五区に分配し、各区二名乃至五名の議員を選出し、 且つ少数者にも多少の代表を与うる為め五名の議員を選出する地方に於ては何人も四名以上の候補者に投票することを得ずと規定せり、 然れども大選挙区法と称する此法制も世人の期待せし結果を生ぜざりしのみならず、 却って其弊害を高むるに至りしを以て、 千八百九十一年更に之を改正して大選挙区制を廃し全国を五百八の小区に分ち、一区一名の小選挙区制を再興せり、 現今に於ては人口略ぼ六万五千人に議員一人の割合なり。

第七項 瑞西代議院の組織

瑞西代議院は一定の資格を有する人民の直接投票を以て選出したる議員を以て組織す、議員の年限は三年にして現在の議員数は百六十七名なり。

選挙資格、 代議院議員を選挙するには左の要件を要す、

  • 一、男子なること、
  • 二、瑞西国民なること、
  • 三、年齢二十一歳以上に達したること、

各州の法律に於て政治上の権利を剥奪せられたる者は選挙人と為ることを得ず、其他財産上に関しては何等の制限なし。

被選資格、 代議院議員の選挙資格と被選挙資格は同一なるを以て選挙資格を有する者は同時に被選挙資格を有す、但し僧侶のみは被選資格を有せず。

選挙方法、 憲法の規定に依れば各州は人口二万人毎に一人の議員を選出し残数一万人を超過するときは又一人を選出す、故に人口の増加に於て議員の数も又増加せざるべからず、 又人口二万を有せざる州と雖も必ず一人の議員を選出す国内を数十の選挙区に分ち一選挙区より一人又は数人の議員を選出す、 然れども一選挙区は二州以上に跨ることを得ず、換言せば数州の一部分ずつ(注5)を以て一選挙区を組織する能わずして一選挙区は必ず一州内に限られざるべからず、 又一名以上の議員を選出する選挙区に於ては選挙人は其総数に向て投票すべきものにして所謂速記投票の制を採れり。

第八項 下院組織の比較論

以上述べたる七カ国の下院組織を見るときは其詳細の点に於ては種々異なる所ありと雖も大体に於ては相一致することを知るべし。

被選資格、 被選資格中に於て男子なること、 其国の臣民なること、 一定の年齢に達したること、 及び財産上の制限を附せざることに付ては何れも一致せり、 此外合衆国に於ては現に選挙せらるる州の住民なることを要すれども之れ此国に特殊なる制限にして他国に其例を見ざるなり、 又消極的制限に至ては其種類甚だ多く従て異なる所も又多しと雖ども此間に於て共通の原則を看出すこと難からず、 議員と官職との関係に付ては合衆国は絶対に此二者を兼ぬることを許さざるは前に述べたる所なるが、 其他の諸国に於ても或る種類の官吏に限りて議員と為ることを許さず而して其理由は或は議員の職務を行うが為めに官職を行うの妨害と為ることを拒ぐの趣旨に出でたるものあり、 或は議員選挙に際し官職を濫用して不当の威力を用ゆることを拒ぐの理由に出づるものあり、 或は又一個の教義上若くは政略上より来るものあれども何れにするも議員と官職との間には或る制限を設くるの必要あることを認むべし、 又或る種類の犯罪者、破産者、請負業者の如きも被選資格より除去せられ、上院議員を兼ぬることは明文に依り又は暗黙の間に禁止せらるることは明なり。

選挙資格、 選挙資格中に於ても男子たること、 其国の臣民なること、 及び一定の年齢に達したることの三点に至ては何れも一致するものと云うべし、 唯前に述べたる如く合衆国中の四州は女子に選挙権を与うれども是れ他国に見ること能わざる異例にして、 今日何れの国の政治社会に於ても未だ女子に選挙権を与うるの必要を認めず、 又選挙人の住居に関する制限に付ては英国には何等の規定なく、合衆国は之を各州の定むる所に一任し、独仏及び日本は之を規定せず、其他消極的資格に至ては大同小異にして別に論ずるの要を見ず、 唯財産上の制限に付ては米、独、仏及び瑞西は絶対的無制限主義を採るに拘わらず、英国、日本及び伊太利は尚お制限主義を保持せり、 之れ余が聊か論ぜんと欲する所なり。

吾人試みに英国憲法史を繙き、十三世紀末の末英国の政治社会に於て初めて庶民院の萌芽を発したる当時の事情を見るときは、庶民院は主として国王の租税徴収権に参与するの目的を以て起りたるものなることを知るべし、 即ち納税者の承諾を得ずして課税するは不当なり、 納税の義務ある者は課税せらるる前に於て商議せらるべき権利ありとの観念は庶民院の因て起りし根本的理由なりしなり、 従って当時庶民院の職務は専ら租税の賦課徴収に向かて可否の協賛を与うるにありしが故に、 庶民院の職務に依て利害を感ずる者は納税者のみにして納税義務なき者は庶民院と何等の関係を有せず、 関係なきものを以て其の組織に関与せしむるは理論の許さざるのみならず無益且つ有害の策なれば、 此時代に関与せしむるは理論の許さざるのみならず無益且つ有害の策なれば、此時代に於て納税義務なき者を排斥して独り納税義務者のみをして代表者を選出しめたるは理論上及び必要上素より当然の事なり、 然れども国会の権力漸次に増加して国会の職務は単に租税の協賛のみに止まらず広く国家の立法事業に関与し尚お進んでは行政の監督を為すが如きに至ては、 国会の性質は全く一変し、国会の職務に依て利害の関係を有する者は独り納税義務者のみに止まらず、国民一般に其影響を受くるものなれば、 此国会を組織するに当て尚お納税の条件を保存し納税者のみを以て其組織に関与せしめ非納税者を排斥するが如きは非理の尤も甚しきものにして国会起源の観念を打破するものと云わざるべからず、 抑も国会の職務に依て利害の関係を有する者は其組織に関与する権利ありとは初期の国会組織に納税者が関与せし根本的原理にして、 此原理は国会の発達に従て消滅すべき性質のものにあらざるのみならず、 益々其適用を確実にするは国会をして弥々其目的を達せしむる所謂なることを知らざるべからず、 尚お又国会は此原理の上に建設せられたるものなれば国会の存続する間は此原理は正当にして之を破壊するは同時に国会制度を破壊する所以なることを悟らざるべからず、 然らば即ち国会発達し国会の権力増加して国会の職務は国民全体に利害の関係を有するときに至ては国民全体をして其組織に関与せしめざるべからざるは原理の適用より生ずる当然の結果なり、 然れども吾人は記憶せざるべからず、此原理は他の原理の為めに甚しき変化を受けざるべからざることを、 蓋し国家が国民に向て参政権を与うるは国民は政治上の利害を有するが為めのみなりと解釈すべからず、若し国民は政治上の利害を有するが故に之に向て参政権を与えざるべからずとせば何れの時代何れの国の国民も政治上の利害を有せざるものなきが故に総ての国家は国民に向かって参政権を与えざるべからずと論結するに至るべし、 去れば国民の参政権は単に利害の一方面より来るものにあらずして他の方面より来るものなることは容易に悟り得べし、 詳言すれば参政権は第一には政治上の利害関係、 第二には適当に之を行使するの能力、 此の二個の要素相結合して発生するものなれば此要素を備えざる者は参政権を享有するの権利なし之を国会の組織に適用すれば仮令国会の職務に依て利害の関係を有する者と雖も適当なる能力を有する者にあらざれば其組織に関与するの権利なしと断論せざるべからず。

斯く論じ来れば国会議員の選挙資格に関し政治学上の原理を適用せんと欲せば二個(注6)の標準に拠らざるべからず、 即ち第一は国会の職務と国民の利害関係なれども今日の国会は何れも国民全体に関する立法事業を為すが故に此点は最早研究するの余地なし、 尤も困難なるは第二の標準たる国民の政治的能力を識別するにあり、 政治的能力を有せずして適当なる議員を選挙する能わざる者に向て選挙権を与うるは政治学の許さざる所なるのみならず国家の政策上よりするも頗る危険の処置たるを免れず、 今日各国の選挙法に於て未丁年者及び女子に選挙権を与えざるは此等の者を以て政治的無能力者と認定したるより生じたるものにして今日の社会進歩の程度に於ては素より至当のことなり、 然れども此等の者を取除き総ての丁年男子に選挙権を与うる所謂普通選挙なるものは至当に政治学の原理を応用したるものと云うことを得べきや、 普通選挙は総ての丁年男子を以て悉く政治的能力を有するものと認定したりとせば之れ甚しく事実に反するものなり、 唯之を区別するの方法なきが為めに国家の政策上より打算して多数の政治能力者に選挙権を与うるの利益の為めに少数の無能力者に選挙権を与うるの弊害を犠牲に供したるものと解釈せざるべからず。

選挙資格に財産上の制限を附するは十三世紀に於ける英国の遺物にして今日に於ては到底学理上の理由に依て之を維持すること能わず、 強いて学理上の説明を加えんと欲せば之に依て国民の政治的能力を区別するに在りと云わざるべからざれども、財産と能力とは必しも一致するものにあらざれば此標準の誤れることは云うを俟たず、 然れども之を外にして他に適当の標準を見出すこと能わず而して普通選挙より生ずる弊害も亦決して鮮少にあらず、是れ英国、日本及び伊太利に於て尚お財産上の制限を除去せざる所以なり。

選挙方法、地方代表主義を捨てて人口代表主義を採れるの点に於ては七カ国共に一致す、 之れ近世の立憲諸国に共通する原則なり、 然れども絶対的の人口代表主義は実際に行わるるものにあらざるが故に何れも之を地方団体と結合せざるものなし、人口と議員との比例に於ては各国其軌を一にせず、 人口に比例して議員の尤も多きは瑞西にして、英国伊太利之に次ぎ、尤も少きは合衆国なり、独、仏及び日本は其中間に在りて略ぼ其割合を均くす、 選挙区に付ては英、米、独、仏伊共に小選挙区制を採用し、瑞西は一定せず、独り日本は大選挙区の単記投票制を採れり、 日本が従来の小選挙区制を廃して現制を採用せるは種々の理由ありと雖も、過去の経験は其理由の実際に当らざるのみならず之が為めに非常なる不便を来すことを証明せるが故に僅に数年の後に於て既に改正の必要を唱るうに至れり、朝令暮改は議院政治の初期に於ては深く咎むべからざるなり。

脚注

(1)
原文では「五磅」と表記されている。
(2)
原文では「开は」と表記されている。
(3)
原文では「加かざれ」と表記されている。
(4)
原文では「得へし」と表記されている。
(5)
原文では「一部分つゝ」と表記されている。
(6)
原文では「二ヶ年」と表記されている。「二个」のことだろうか。