『帝国議会 第90回 昭和21年09月03日』

last updated: 2010-11-14

情報

昭和21年09月03日に、貴族院の帝国憲法改正案特別委員会で行われた答弁のテキストです。

データは帝国議会会議録検索システムにて公開されているものを使用しました。 なお、新字体や現代仮名遣いへの変更、読みやすいように改行を増やす等公開されているテキストに手を加えました。 会議録の原文も誤っていると思われる箇所については、加除訂正をしました。 該当箇所については明記していません。

本文

国体問題に付きまして昨日私が此の所に於て述べましたことが、何か今朝の新聞を見ると、政府部内に於ける国体論が区々である、不統一であると云うような記事が現れて居りましたけれども、此の点に付て一言私弁解致して置きます、

松本委員からして国体に関する色々な御説が出まして拝聴致しましたが其の中に於て、国体をば成文法に依って決めると云うことは間違って居るのであると云う御説がありました、

私は国体を述ぶるに当りまして、法律上の見方と倫理上の見方とあると云うことを申上げましたが、併し私が法律上の見地からして国体を見ると云うことは、日本の現行憲法の条文のみを以て論議し去ったのではないのであります、

是は私が申す迄もなく、憲法を論ずる学者は異口同音に申して居られるのみならず、又そうなくてはならぬのでありまするが、天皇の主権は現行憲法に依って初めて現れて居るのでないのであります、是は二千何百年来の歴史上の事実に依って、牢固として動かすことの出来ない大きな事実であります、之を憲法の条文に表したと云うだけのことでありまして、憲法の条文に依って、初めて天皇主権が生れ出たものではない、

若しそう云う考を持ちますならば、憲法がなかったならばどうであるか、日本に憲法がなかったならば、天皇主権と云うものは出て来ないのである、そう云う論結は下すことは出来ないのでありまするからして、私が法律上より見たる国体論と云うことを申しましたのは、現行の憲法の条文だけに依ってそう述べたのでないと云うことを、茲に明かにして置きます、

それからして松本委員は、世界が非常に変って来た、国家も変って来たのであるからして、国体論に付ても亦変った意見が現れるであろう、古い学説は止めて新しき学説を生み出すことが、日本になくてはならぬのでないかと云うような御議論がありましたけれども、私は日本の国体と云うものが学説に依って、古い学説を抛棄して新しき学説に依って、新しき日本の国体が生れるものであるかと云うような、そう云う御議論に付ては、遺憾ながら賛成は出来ませぬ、日本の国体は如何に世界が変ろうとも、如何に国内情勢が変って来ると雖も、千古万古に亘って変わるものではないと云うことを、茲に明かにして置きます、

其の他色々な御質問がありましたけれども、なかなか錯雑して居りまするからして、此の御意見に賛成することが出来るか賛成することが出来ないかと云うことは、私相当に考慮して置いてみたいと思ひます、是だけのことをば申して置きます