『帝国議会 第91回 昭和21年12月09日』

last updated: 2010-11-14

情報

昭和21年12月09日に、貴族院の参議院議員選挙法案特別委員会で行われた答弁のテキストです。

データは帝国議会会議録検索システムにて公開されているものを使用しました。 なお、新字体や現代仮名遣いへの変更、読みやすいように改行を増やす等公開されているテキストに手を加えました。 会議録の原文も誤っていると思われる箇所については、加除訂正をしました。 該当箇所については明記していません。

本文

委員会の御質問も段々おしまいになるようでございまするが、私は此の機会に於きまして此の法案を御審議になりまする御参考と致しまして、私の卑見を一言述べさして戴きたいと思います、

御断りをして置きまするが、此の全国一選挙区と云うことであります、政府案として提出をされました以上は、私、政府の一員と致しまして決して之に反対をする意味で御話をするのじゃありませぬからして、先ず以て其のことを御承知を願いたいと思います、

私及ばずながら議員生活をやって居りまして、殊に此の選挙法の改正に付きましては初めから関係を致して居ります、政党に居ります時分にも、又内務省に奉職致して居ります時にも、選挙法の改正に付きましては相当に研究を致しましたのみならず、過去十二回の選挙に当りまして選挙界のことは自分の選挙に限らず、他人の選挙のことに付ても相当に経験を致して居るのであります、

此の見地からして見まして、全国的選挙区ということが実際どう云う工合なものになるかと云うことを私考えて居ります、政府の説明に依りますと、全国的に選挙区を設けたと云うことは、一つは職能代表の意味を加味せしめる、もう一つは全国的の偉い人物をば選挙せしむる、これが二つの理由になって居ります、

処が私は職能代表と云うことに付きましては元来賛成を致しませぬ、日本の社会組織が職能的に組織せられて居らぬと云うことは御承知でありまするからして、職能的代表と云うことは実際行われるものではありませぬ、職能代表と申しますならば、其の職能所謂国民の一部を代表するのであります、一階級を代表するのでありまして、憲法に規定して居ります所の、衆議院も参議院も共に全国民を代表すると云う此の原則に矛盾するものでありますからして、私は職能代表と云う言葉は此の意味に於て憲法の精神と相容れないものであると思って居ります、

殊に是迄も現れましたように、例えば弁護士と云う職能を代表しようと云う時に、僅かに五千か六千の弁護士団体であるからして、全部揃ったところで一員の代表者を出せるものじゃありませぬ、医者の方に於きましても、五万人か六万人の人であるから、全部結束したところが一人の代表を出せるものではないのでありますからして、全国の職能代表と云うことは実現しないものであると云うことは、之に依っても分るのであります、

それからして全国的の大人物を出すと云うのでありますが、是は大人物でありまするならば、全国的の選挙区を設けぬでも、府県単位の選挙区に於て十分出られます、

(拍手)

例えば府県に於て出られぬけれども、全国的に於てなら出られると云うことは、それは大人物でも何でもないのであります、例を採るのはおかしいのでありますが、例えば尾崎行雄君であります、是は大選挙区に於ても、中選挙区に於ても、小選挙区に於ても必ず出られるのであります、何も全国でなくては出られぬと云う訳はないのであります、

(拍手)

府県を単位とする選挙区では、出られぬと云うことは実際今日に於てはないと思って居ります、故に全国に向って大選挙区を維持すると云うことは、私には腑に落ちぬのであります、処が是が為にどの位の不便があるかと云うことを、一つ御考を願いたいのであります、

先ず第一に府県単位の選挙区とせられまするならば、選挙運動を相当に制限することが出来るのでありますけれども、全国と云うことになりますと、却て選挙運動が全く無制限になってしまって、選挙運動に関する枠を外してしまうのであります、

即ち今日の衆議院議員選挙に関しては、選挙期日公布後にあらざれば選挙運動をなすことは出来ぬと云うことであります、其の枠を取ると、参議院は年中選挙運動が出来るのであります、又事務所の制限はしない、運動員も事務員も何ぼ使っても宜しいのであります、

衆議院議員選挙に関しては制限するのでありますけれども、参議院の方に於ては無制限である、戸別訪問は衆議院に於ては禁じて居りますけれども、是もやっても宜しい、尤も全国の選挙区になって来ると、一々戸別訪問は出来るものではありませんけれども、それでも町会長、部落会長を訪問する、或は隣組長を訪問することに依って、相当な有効なる選挙運動が出来るのでありますが、是も禁じてない、

それからして何ぼ郵便を出しても、新聞には何ぼ広告しても宜しい、文書戦もどんなにやっても宜しい、斯う云うのでありますからして、金のある者は何ぼ金を使っても選挙運動をやれる、唯金の支出は公告致しまするけれども、併しながら百万円使おうと、二百万円使おうと金の制限はありませんから、不適法にあらざる限りはどんなに金を使っても宜しいのでありますからして、今日の金の安い時代に於きまして、参議院議員になれると云うことになりましたならば、百万や二百万の金は何でもないのでありますからして、随分私は変な選挙が起るであらうと思います、

それからして、政府の手数のかかることは大変なことであります、非常に手数がかかる、投票の計算はむずかしいのであって、二十日位かかっても宜いのであります、

それから補闕選挙であります、当り前から申しまするならば、一員の補闕があっても補闕選挙をやらなければならぬのでありますが、全国的でありますと、補闕選挙を請求致しまして、何でも四分の一以上の補闕がないと、補闕選挙をせぬと云うのでありますから、少くも十五、六名の補闕がないと選挙をしない、一人でも闕員がありましたならば一人の代表者を失うのでありますから、補闕するのが選挙の原則でございまするが、全国一選挙区と云うことになりますると是も出来ない、

もう一つ一番御考えにならなければならぬのは、一人で二人の議員を選挙するのであります、即ち全国的の候補者に向って投票する、或は地方的の候補者に向って投票する、一人の有権者が自分の代表者として二人の議員を選挙すると云うことになります、是は選挙法に於て斯う云うことが認められるものかどうかと云うことは、御互いに考えなければならぬことであります、

処が一人の有権者で二人の議員を選出すると云うことは、どう云う結果になるかと申しますと、一人は例えば自由党の議員を選出する、一人は共産党の議員に向って投票する、と云うことが可成り起るのでありまするから、全く是は意義のない選挙になるのであります、

斯う云うことを数えますると限りはございませぬが、一選挙区とする理由として、職能代表と云うことも無意味である、人物の選出も無意味である、のみならず是が為に生ずる弊害は斯くの如きものでありまするからして、是はもう少し御互ひに研究しなくてはならぬことであると思います、

私は是が為に決して政府者として政府の原案に反対する者じゃございませぬが、

(笑声起る)、

併し此の問題を御研究になりまするに付ては、斯う云うことも一つの御参考になると云う、自由独立な

(拍手、笑声起る)、

御考を以て御審査を願いたいと思います、是だけのことを御話致しまして、何か御参考の一端に供することが出来ましたならば仕合せでございます

(拍手、笑声起る)