2022年01月21日 安川寿之輔氏へのメール
このテキストについて
平山氏からの依頼により、2022年1月21日付けの安川 寿之輔名古屋大学名誉教授への電子メールを掲載します。
本文
安川 寿之輔 様
年賀状ありがとうございました。また、『さようなら!福沢諭吉』第12号(2021年12月27日)をお送りいただき、たいへん感謝しております。
「さようなら!福沢諭吉の会」の会員数は12月現在880名だそうで、この半年で44名減少しています。あと10年で会自体が消滅してしまう勘定です。これは由々しき事態で、前々から機関誌のオンライン化を強くお薦めしているのも、紙文化の終焉という時代の趨勢に乗り遅れてはならない、と信じているからです。
前号は福沢関連の論文も多くて、7月15日付メールにも書いたように、論評を意義も感じられたのでしたが、今号はそもそも福沢を扱ったといえる論文はないようなので、感想は差し控えます。
世相一般を見渡してみても、安川さんが半世紀以上にわたって批判してきた福沢のアジア観への言及はますます弱まっていると実感しています。
もちろん福沢本人への関心が薄れたわけではないのです。現に一昨日(1月19日)初回放送のNHK BSプレミアム『英雄たちの選択』は「私には見えている!福澤諭吉 日本近代化の夢」がテーマで、英国型議会政治を志向する福沢の姿があぶりだされていました。けれども安川さんが批判してきた福沢のネガティブな側面には触れられずじまいだったのです。
私自身としては、番組に出演されていた小川原正道慶應義塾大学法学部教授や都倉武之同福沢研究センター准教授の見解と大筋では同意見なのでいいのですが、安川さんとしては黙っていてはいられない問題なのではないでしょうか。
ただ、こと福沢のアジア観については、私がこの20年間続けてきた研究がようやく実を結びつつあって、安川さんによる福沢批判がますます根拠を失いつつあるのを実感しています。新たに発見された社説「植民地の経略は無用なり」(1896年1月5日)や「朝鮮の独立の根本を養う可し」(1898年5月4日)は石河幹明によって全集に収録されませんでしたが、私は福沢本人の執筆と判定しています。
もちろん平山の判定などあてにならないと安川さんは言うでしょう。けれども、『時事新報』に掲載されている社説はすべて福沢の思想の反映だ、とする安川さんの立場からして、それらが福沢の一側面を表していることはお認めになるのは間違いないところです。
第12号の「編集後記」に、「一過性虚血発作、前立腺ガン、複視、狭心症・心臓バイパス手術、帯状疱疹後神経痛などと、派手に死亡適齢期の各種病気の発症・入院・手術を繰り返しています」とあって一瞬心配しましたが、あと10年は健康寿命を保つことができそうとのことで、安心しました。
寒い日が続きますが、くれぐれもお体を大切にしてください。
平山 洋