「『福沢諭吉朝鮮・中国・台湾論集』所収論説一覧」
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杉田聡編『福沢諭吉 朝鮮・中国・台湾論集―「国権拡張」「脱亜」の果て―』(2010 年 10 月 25 日・明石書店刊)所収の論説一覧を公開しています(注1)。 訪問者への便宜を図るため、テーマ別編成を時系列順に直し、大正・昭和・現行のいずれの全集に所載されているか、また、福沢直筆原稿の有無を示しました。 最初の数字が原本での掲載順です。 また、各テーマには略称が使われています。「対外」は「対外論一般」、「壬午」は「壬午政変」、「甲申」は「甲申政変」、「日清」は「日清戦争」、「旅順」は「旅順虐殺」、「暗殺」は「王后暗殺」、「台湾」は「台湾論」を示しています。
さらに、平山氏に各論説の起筆者推定をしていただきました。平山氏によれば 最後の列の「推定福沢」は「推定福沢諭吉執筆」を意味し、以下、「中上川」は 「中上川彦次郎」、「高橋」は「高橋義雄」、「渡辺」は「渡辺治」、「石河」 は「石河幹明」となります。「推定福沢」については、その根拠が簡略に示され ています。この推定については今後判定が変わる可能性もあるとのことです。
なお、この一覧について、平山洋氏より次のようなメールがありました。
杉田聡氏編のこの論集によって、私が以前から唱えていた、「福沢諭吉は侵略論者ではない」との主張が ますます補強されたことを喜んでいます。その要点は次の通りです。
(1)杉田氏によれば、1882 年 12 月 12 日から 1884 年 12 月 14 日まで丸 2 年間、1885 年 8 月 14 日から 1887 年 1 月 6 日まで 1 年 4 ヶ月間、1887 年 1 月 8 日から 1892 年7月 18 日まで 5 年 6 ヶ月間、1892 年 7 月 20 日から 1894 年 5 月 29 日まで 1 年 10 ヶ月間、そして 1896 年 7 月 30 日から亡くなるまでの 4 年 6 ヶ月間、合計 15 年 2 ヶ月の間 朝鮮・中国・台湾に関する論説を書いていない、ということです。福沢が時事新報を創刊したのが 1882 年 3 月 1 日、没したのが 1901 年 2 月 3 日で、18 年 11 ヶ月ですから、福沢は大部分の期間、それらの地域に関心 がなかったことになります。
(2)杉田氏が採録した論説の、大正・昭和・現行版全集の収録状況は、全 54 編のうち、大正版 8 編、昭和版 44 編、現行版 2 編となっています。つまり大多数は満州事変(1931 年)直後の 1933 年以降に増補された論説 である、ということです。福沢のものとされるアジア関係論説が、時局迎合のために集められたのではないか、 という拙著『福沢諭吉の真実』の主張が、改めて確認できたことになります。
(3)杉田氏が採録した論説のうち、自筆草稿が残存しているものは 3 編です。また、草稿は残っていないものの 署名入りで発表された意見広告「私金義捐について」があります。福沢の自筆草稿残存社説は現在のところ 92 編発見されていますが、 残る 89 編には問題がなかった、ということなのでしょう。
(4)杉田氏は、私と同様に、安川寿之輔氏の研究に疑問を呈されているようです。というのは、安川氏は、 『福沢諭吉のアジア認識』巻末のリストにおいて、1896 年 7 月 30 日以降、1898 年 9 月 26 日に福沢が脳卒中に 倒れるまでに発表された 20 編を問題社説としています。その中には、武装蜂起した台湾原住民を全滅させよ、 という 1896 年 8 月 8 日発表の「台湾島民の処分甚だ容易なり」が含まれていますが、杉田氏はなぜかそれらを「台湾」の部に 収めていません。安川氏は、脳卒中の発作後の 5 編もリストアップしていますが、杉田氏はそれらも本論集に入れ ていないのです。これは、杉田氏が解説では安川氏を高く評価しているといいながら、実際にはそれらが福沢 のものではない、と考えていることの証左でしょう。
このような次第で、福沢が書いたとはっきり分かっている 「土地は併呑すべからず国事は改革す可し」 「支那人親しむべし」 は収められていないものの、結果として本論集は私の見解を強く支持するセレクションになっています。 とりわけ私が福沢の対外論説として高く評価している、 「国交際の主義は修身論に異なり」「脱亜論」「朝鮮人民のためにその国の 滅亡を賀す」が収録されているのは喜ばしいかぎりです。多くの人にこの論集が読まれることをねがってやみません。
なお、本サイトでは別に「『福沢諭吉朝鮮・中国・台湾論集』の逐条的註」を公開しています。
収録論説一覧
1 | 対外 | 圧制もまた愉快なるかな | 820328 | 大正 | 非残存 | 推定福沢 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
7 | 壬午 | 朝鮮の変事 | 820731 | 昭和 | 非残存 | 推定中上川 | |
8 | 壬午 | 喉笛に食いつけ(漫言) | 820802 | 大正 | 非残存 | 未詳 | |
9 | 壬午 | 出兵の要 | 820818 | 現行 | 残存 | 福沢 | |
10 | 壬午 | 朝鮮事変談判の結果 | 820904 | 昭和 | 非残存 | 推定中上川 | |
11 | 壬午 | 東洋の政略はたしていかんせん | 821211 | 大正 | 残存 | 推定波多野 | 福沢による浄書残存 |
12 | 甲申 | 朝鮮事変 | 841215 | 昭和 | 非残存 | 推定中上川 | |
13 | 甲申 | わが日本国に不敬・損害を加えたる者あり | 841218 | 昭和 | 非残存 | 推定中上川 | |
14 | 甲申 | 朝鮮事変の処分法 | 841223 | 昭和 | 非残存 | 推定中上川 | |
15 | 甲申 | 軍事支弁の用意大早計ならず | 841226 | 昭和 | 非残存 | 推定中上川 | |
16 | 甲申 | 戦争となれば必勝の算あり | 841227 | 昭和 | 非残存 | 推定渡辺 | |
17 | 甲申 | ご親征の準備いかん | 850108 | 昭和 | 非残存 | 推定高橋 | |
18 | 甲申 | 官報再読すべし | 850131 | 昭和 | 非残存 | 推定中上川 | |
5 | 対外 | 国交際の主義は修身論に異なり | 850309 | 大正 | 非残存 | 推定福沢 | |
2 | 対外 | 脱亜論 | 850316 | 昭和 | 非残存 | 推定福沢 | |
19 | 甲申 | 朝鮮人民のためにその国の滅亡を賀す | 850813 | 昭和 | 非残存 | 推定福沢 | |
20 | 日清 | 朝鮮は日本の藩屏なり | 870106 | 昭和 | 非残存 | 推定福沢 | |
3 | 対外 | 外国との戦争かならずしも危事・凶事ならず | 870107 | 昭和 | 非残存 | 推定渡辺 | ↑ここまでは福沢の指導 |
4 | 対外 | 一大英断を要す | 920719 | 大正 | 非残存 | 推定石河 | |
21 | 日清 | 朝鮮東学党の騒動について | 940530 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
22 | 日清 | 速やかに出兵すべし | 940605 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
23 | 日清 | 安心しなせい(漫言) | 940612 | 昭和 | 非残存 | 未詳 | |
24 | 日清 | 白どんの犬と黒どんの犬と(漫言) | 940614 | 大正 | 非残存 | 未詳 | |
25 | 日清 | 朝鮮の文化事業を助長せしむべし | 940617 | 昭和 | 非残存 | 推定福沢 | 人民のみ 8 回使用 |
26 | 日清 | 日本兵容易に撤去すべからず | 940619 | 昭和 | 非残存 | 推定福沢 | 維新を革命と捉えている |
27 | 日清 | 兵力を用ゆるの必要 | 940704 | 現行 | 残存 | 福沢 | 石河は全集非採録とした |
28 | 日清 | 世界の共有物を私せしむべからず | 940707 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
29 | 日清 | 支那・朝鮮両国に向いて直ちに戦を開くべし | 940724 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
30 | 日清 | 我にさしはさむところなし | 940727 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
31 | 日清 | 日清の戦争は文野の戦争なり | 940729 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
6 | 対外 | 私金義捐について(福沢署名入) | 940814 | 大正 | 非残存 | 福沢 | 署名入り意見広告 |
32 | 日清 | 日本臣民の覚悟 | 940828 | 大正 | 非残存 | 推定石河 | |
33 | 日清 | 支那将軍の存命万歳を祈る(漫言) | 940920 | 昭和 | 非残存 | 未詳 | |
39 | 旅順 | 横浜の小新聞 | 941002 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
47 | 台湾 | 台湾割譲を指令するの理由 | 941205 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
40 | 旅順 | 旅順の虐殺無稽の流言(石河執筆) | 941214 | 昭和 | 非残存 | 石河 | |
41 | 旅順 | わが軍隊の挙動に関する外人の批評 | 941230 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
34 | 日清 | 改革の勧告ははたして効を奏するやいなや | 950104 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
35 | 日清 | 朝鮮の改革に外国の意向をはばかるなかれ | 950105 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
36 | 日清 | 義侠にあらず自利のためなり | 950312 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
48 | 台湾 | 台湾の処分法 | 950522 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
37 | 日清 | 軍艦製造の目的 | 950716 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
49 | 台湾 | 台湾永遠の方針 | 950811 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
50 | 台湾 | 厳重に処分すべし | 950814 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
51 | 台湾 | 台湾の豪族 | 950822 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
42 | 暗殺 | 事の真相を明らかにすべし | 951015 | 昭和 | 非残存 | 推定福沢 | 維新を革命と捉えている |
43 | 暗殺 | 朝鮮の独立 | 951023 | 昭和 | 非残存 | 推定福沢 | 露の対馬占拠事件を詳述 |
38 | 日清 | 戦死者の大祭典を挙行すべし | 951114 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
44 | 暗殺 | 二八日の京城事変 | 951207 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
52 | 台湾 | 台湾の騒動 | 960108 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
45 | 暗殺 | 京城の事変 | 960214 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
46 | 暗殺 | 朝鮮政府の転覆 | 960215 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
53 | 台湾 | 台湾の方針一変 | 960717 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 | |
54 | 台湾 | まず大方針を定むべし | 960729 | 昭和 | 非残存 | 推定石河 |
脚注
- (1)
- エクセル形式の一覧表は collected_essays_selected_by_Sugita.xls から入手できます。